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第3話「がんばって!」

ワンセットマッチ-4ポイント(15.30.40.ゲームポイント)を一ゲームとし、六ゲーム先取した方が勝ちという試合ルール。


チェアアンパイア-テニスコートの脇にある高い椅子に座る審判のこと。主審。


ゲームカウント-一ゲームのカウント数。


サービスボックス-ネット際の二つの大きな枠。サーブは打つ側から見てクロスの枠に入れなければいけない。

 ※


『私を、インターハイに連れて行って』


 何度も脳内でリフレインする先日姫野先輩から言われた言葉。


「……デュフ」

「…………」

「デュフフデュフフ」

「キモ」

「酷っ!」


 大賀の端的かつ辛辣な言葉に俺はツッコむ。

 昨日、今日から始まる部内戦のトーナメント表がトークアプリを経由して部員に伝えられ、俺の初戦の相手は高二の楠本将(くすもと まさる)先輩となった。


「前回の部内戦では、高二のうちで十五人中十三位。そう強い相手ではないな」

「あぁ、もちろん勝つ気でいる」


 というか、勝たなければならない。

 姫野先輩をインターハイに連れて行くと約束した以上、楠本先輩には悪いが、こんな所で苦戦するわけにも行かない。そして俺は、インターハイに行ったら先輩に告白する!


「勝つ気でいるってお前……」

「デュへ?」

「そのニヤケきった顔でミスるなよ」

「誰に言ってるんだデュフフ。俺が負けるわけデュフフだろ」

「気持ち悪い」


 ニヤケが止まらないのは仕方ない。嬉しいものは嬉しいのだ。

 とりあえず俺には、ミックスダブルスで先輩とペアを組むという権利が与えられた。あとは権利を行使出来るくらい強くならなければならない。


「順当にいけば、俺とお前が当たるのは決勝。まだまだ先だな」

「そうだな、勝ち上がってこいよ敦也」

「もちろんだ」



 ※

 部内戦。

 それは、我がテニス部において並々ならぬ意味を持つ。我が校のテニスコート数は、他のテニス強豪校に比べて圧倒的に少ない。それでも県大会の決勝までいくのは単に圧倒的効率重視の練習メニュー。


 学年問わず上手い人がより多くコートに立ち練習が出来る、というもの。

 男女それぞれ三面ずつあるテニスコート。試合が予定されているメンバーに一面。部内戦上位者に一面。それ以外に一面という配分だ。


 そうなると当然、試合メンバーは部内戦下位者より多くコートに立って模擬試合をする機会がある。それに対し部内戦下位者では、一面のコートに対して十数人でプレーするため、機会が少ない。


 四月から五月にかけての新入部員がいるタイミングでだけ、部内戦上位者と下位者がごちゃ混ぜになって練習することが出来るが、三ヶ月一度の部内戦で上位に入れなければ、上手くなる機会さえ少ないのだ。


「それでは部内戦を始める。まずは一年、中山大賀と二年の中村雄一の試合を行う。試合形式はワンセットマッチ。判定は、一応チェアアンパイアが付くが、原則セルフジャッジで行う」


 部長の説明が終わると、大賀と中村先輩がコート上で握手を交わす。

 サーブリターンの練習をした後、大賀のサーブから試合が始まった。


「くっ!」


 初手は太賀が得意とするフラットサーブ。流れを自分ペースに進めていく気満々だ。

 中村先輩は流石というべきか、太賀のサーブを労せずして返球する。そこから五回ほどラリーが繰り返され、一ポイント目は太賀がものにした。

 すると、部長がトーナメント表を持って俺に話しかける。


「敦也、お前の試合もやるぞ」

「え、あ、はい!」


 俺はすぐにラケットを持って空いている三番コートのベンチに座って息を整える。

 選手として出るのであれば、二回戦までを突破すればいい。だが、確実にミックスダブルス部門に出るのであれば、上位にいきたい。


「ふぅ……」


 俺はふと、四番コートの女子の試合を見た。そこでは姫野先輩が試合をしていた。ゲームカウントは4-0。姫野先輩リードだ。

 すると先輩と目が合ってしまった。先輩もそれに気付いてニコッと笑うと、口パクで、


「(がんばって!)」


 そう俺に言っているような気がした。

 楠本先輩はすでにウォーミングアップを始めている。

 俺は口パクで「頑張ります!」と伝えるとサーブ権を決めてコートに立った。

 そしてサーブリターンの練習をしてから、俺のサーブから試合が始まる。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ────んっ!」


 ベースラインに立ち、深く息を吐いてから、ボールを高く、少し前めに振り上げる。


「すぅぅぅぅぅぅぅーっ!!!」


 ボールが弧の折り返し地点に到達するまで、大きく息を吸い込み同時に両足を少し曲げる。


 ボールが折り返し地点に到達した瞬間、脚をバネのように使い、ラケットのトップでそれを捉える。ボール、右肩、左腰、左脚が一直線上に現れ、ボールが楠本先輩のコートのサービスボックスを穿つ。


「なっ……!」


 楠本先輩は、ぽかんと口を開いたまま動かない。


「よしっ」


 俺は小さくガッツポーズをする。まずは先制ポイント、流れを作るのに丁度いい。

 俺はボールを回収すると、再びベースラインに立って、ボールを振り上げるのだった────



 ※


「あ、やっぱいた」

「姫野先輩?」


 部内戦の一回戦全試合が終わり、俺と大賀は無事二回戦に進出した。

 しかし、大賀は先輩相手にゲームカウント6-0だったのに対し俺は6-2。勝ったはいいものの、姫野先輩とダブルスペアとして出るのであれば、結果としては不甲斐ない。


「試合で疲れてるのに練習?」

「はい、ミスしたところを体が覚えているうちに復習したくて」

「なるほど」


 俺は練習を中断し、ベンチに座り水分補給をする。


「ところで、先輩はなんでここに? 今日も忘れ物ですか?」


 俺の問いに姫野先輩は「ううん」と首を横に振った。


「今日は敦也くんと話をしたくて」

「え、俺と?」

「うん。この後時間ある?」

「大丈夫です」


 というか、姫野先輩より優先する予定などこの世に存在いたしません。

 先輩は立ったまま「ちょっと一緒に行きたいところがあるの」と言う。


「話も、そこに行けばわかるから、とりあえずついてきて」

「はい……?」


 ……もしや、これは放課後デートのお誘いなのでは?!

 この前の俺は、自分で言うのもなんだがカッコよかった! 「俺が連れて行きます」と豪語したのだ、流石の姫野先輩もグラっと来たのかもしれない!


 俺はすぐさま練習を切り上げ、汗を拭きテニス部のジャージを着る。これは男女で同じデザインの物だ。先輩も今日は制服ではなくジャージを着ている。

 つまりペアルックデート!!


「じゃあ行こっか」

「はい!」


 ドキドキしてきたぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!

第3話でした。

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