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第19話「優しい奴はテニス上手ないんやで」

 ※

 ゲームカウント0-1

 完全に多摩先輩に翻弄され、1ポイントも取れないまま、1ゲーム目が終わってしまった。


「敦也くん、ちょっとええか?」

「はい……?」


 コートチェンジのタイミングでベンチに戻ると、多摩先輩から俺に声を掛けてきた。


「ちょっと耳貸してや」


 そう言われて俺は先輩に右耳を向ける。

 何かアドバイスだろうか? 現状、手も足も出ていない状況で、八百長ではないがアドバイスの一つや二つくれるのかもしれない。




「弱すぎて話にならんわ」




「ッッッ!」

「もっと骨のある奴かと思っとったわ」


 この人は……ッ!


「前に言ったなぁ。優しいまんまでいてくれ、と」

「…………」

「優しいまんまでいてくれてあざっす」

「……ッ!」


 優しい人。そんなの俺の勘違いだった。この人は優しくなんかない。

 この人は……!


「あの姫野っつー女にも期待してたんやが、期待はずれやったわ」

「…………」


 言われっぱなしでいいのか木ノ下敦也……ッ!

 ペアを組んでいる人を、好きな人を愚弄されたんだぞ……!

 この人がわざわざ俺にだけこれを言う理由は容易に想像がつく。俺の冷静さを失わせたいだけだ。

 だから、落ち着け……!



「二人揃って、せいぜい良い踏み台になってくれや」



「……ッ!」


 ……絶対、絶対に負けられない……! この男には……!

 戻ろうとする多摩先輩は「あ、そうそう」と更に付け加えた。


「優しい奴はテニス上手(うま)ないんやで」



 ※

 2ゲーム目。

 俺は事前練習同様、自陣コートのフォアサイドを守備する。サーブを打つのは多摩先輩。

 ここだけは……! このゲームでブレイクしないと流れを完全に持っていかれる。


「ほな、いくで────」


 グッとグリップを握る手に力が篭もる。これは彼への怒りなのか、はたまた自分を奮い立たせる為のものなのかわからない。

 多摩先輩はボールを上げて打った。


「え……」


 次の瞬間、ボールは俺のすぐ右横を駆け抜けた。

 俺は微動だにせず。状況を整理するので手一杯。


「敦也くん?」

「…………っ! あ、すいません……!」

「ううん、それは良いんだけど……。大丈夫?」

「大丈夫とは?」

「…………いやなんでもない」


 今多摩先輩が放ったのはクイックサーブ。

 トスの高さを低くし、自分の体よりボールを右側に出した上で下半身を動かさず上半身のみでサーブのモーションを素早く行うサーブ。


 プロでは主に、試合の流れを変える時や不意をつく時に使用される。

 最初から飛ばしてきやがった……!


 0-15


 また先制点を取られてしまった。

 しかし、クイックサーブはそう何度も使えない。来ると分かっていれば対応するのはそこまで難しくない。

 今のを見た姫野先輩はしっかり対策してくるはず。


「お願いします」

「うん!」


 多摩先輩は……今度はフラットサーブを打ってきた。

 手を抜いたと言うより、二度も同じ手は通じないだろうという姫野先輩への警戒かもしれない。

 姫野先輩は安定した返球を見せる。


「ッ!」


 男子と女子では腕力が違う。姫野先輩のボールにはもちろん十二分なパワーがあるが、多摩先輩とラリーをするとなれば別の話。


「くっ……!」


 徐々に押されていく姫野先輩。ボレーに入り試合の流れを変えたいところだが、なかなか多摩先輩は俺にチャンスをくれない。

 ここは少々危険だが攻めるべきか……?

 そう思った瞬間、多摩先輩のボールが緩んだ。


「────ッ!」


 俺はこのチャンスを逃すまいと右腕を伸ばし右足を左側へ踏み込む!


 スパーンッ!


 ボールは女子選手の足元を射抜き、コート外で2バウンド目を果たす。


 15-15


「敦也くんありがとう!」

「いえ……」


 今のボールに俺は違和感を覚えていた。

 おかしいのだ。緩いボールをすれば、間違いなく俺はそのボールに噛み付く。それがわからない多摩先輩じゃないだろう。


 わざと俺にボレーを打たせた……? 1ポイントくらいくれてやると……? 多摩先輩は何を考えて俺にボレーを打たせたんだ……?


 真意がわからない以上、素直にポイントを噛み締める方がいいのかもしれない。本当にただボールが緩んでしまった可能性だってある。


「ここから挽回していきましょう、先輩」

「うん!」


 パンっ! と俺と姫野先輩はハイタッチして前後を入れ替わる。

 今の多摩先輩の行動は少し不可解で気になるが、ポイントを取ったことに変わりはない。


 そういえば多摩先輩がさっき言っていた『優しい奴はテニスが上手くない』とはどういう意味だろう?

 確かに性格はプレイスタイルに反映されたりするが、ボールの威力に手を抜く選手がいるだろうか?


「ッ!」


 多摩先輩のフラットサーブをクロスに打ち返し、ラリー合戦へと持っていく。

 ラリーになれば、先程のように再びチャンスが来て姫野先輩が決めることが出来る。だが姫野先輩の体力ももう限界。


「ッ!」


 トップスピンを多めに掛けた鋭いクロス。このボールはバウンドしてから────跳ねる!


「くっ……!」


 多摩先輩は辛うじてボールを取るが山なりに浮く。

 その隙を姫野先輩は当然見逃さなかった。姫野先輩は左足をしっかり踏み込んで、ラケットの面を固定し完璧なボレーを打ち込んだ。


 30-15


 ここに来て、ようやく俺たちは隅田学園ペアに対して初めてリードした。

 このまま押し切って勝つ!!!


「ふッ!」


 強烈なフラットサーブ。しかし流石は姫野先輩、安定したボールで返球する。そして再びラリー合戦が始まる。

 なんとしてもこのリードのまま、このゲームを取って同点に追いつきたい。

 もっとボールをよく見ろ!


 多摩先輩が打ち、姫野先輩が打ち返す。



 そしてまた多摩先輩が打ち、姫野先輩が打ち返す。




 そして、また多摩先輩が打ち、姫野先輩が打ち返す。





 そして、また、多摩先輩が打ち、姫野先輩が打ち返す。






 そして、また、多摩先輩が、打ち、姫野先輩が、打ち返す。






 あれ……ラリーがゆっくりに見える。

 なんで二人ともこんな遅いラリーをしてるんだろう。

 こんなボールだったら俺────



「「「えっ」」」



 スパンッ!



 40-15



 あの1ポイントでゲームを奪取出来る。

 俺は再び後衛に下がって多摩先輩のサーブを待つ。フラットサーブだろうか? スライスサーブだろうか?


「────!」


 この高さは……


 パコンッ!

 スパンッ!


「なっ……?!」


 ……クイックサーブ!

 不意打ちクイックサーブに反応された多摩先輩は動揺し俺のリターンを受け取るも、返球したボールはネットに行く手を阻まれた。


 第2ゲーム、ブレイク。

第19話ありがとうございました!!

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