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第15話「ごめんなさい」

 ※

 姫野傑。

 姫野先輩のお兄さんであり、高校三年生で元テニス部所属。恐らく怪我を理由にテニスをやめ、完治した今も怪我への恐怖からコートに立てないでいると思われる。


「俺とペアを組もう姫野。俺がお前と、傑先輩をインターハイまで連れて行くから」


 そして今、この壁の向こうの階段で、俺の夢が断たれようとしていた。

 なんでそういう結論になるの?!


「え……でも……」

「姫野と木ノ下くんがどういう関係かは知らない。でも現に今日の試合で姫野たちは負けた」

「そ、それは心ちゃんの頑張りもあったからで……」

「そうだけど、俺と姫野ならもっと強いペアになれる」


 言い返す言葉がない。

 負けたのは事実。俺の実力不足が顕著に現れた。


「確かに木ノ下くんは強い。一年であの実力があるのは凄いことだ。でも……」

「でも……?」



「彼とじゃインターハイには行けない」



「「……っ!」」

「彼は強い。でもまだ粗が多い。インターハイはそんな状態で行けるような所じゃない。もっと洗練されてないとダメなんだ、傑先輩のように」


 俺のプレーが荒い…………?

 確かに自分のテニスが、人から賞賛されるほど凄いものとは思っていないし、現に郡山先輩には負けたわけで……。


「だから俺と組もう姫野」

「…………」

「きっと俺と姫野ならインターハイも行ける。小鳥遊さんと木ノ下くんは仲が良いし、彼らなら大丈夫だ」


 言い返せない……。

 全て事実だから、何も言い返せない。

 工藤先輩の言う通り、姫野先輩がインターハイに行くには、彼と組んだ方が確実なのかもしれない。


 俺のように、尊敬しているから、好きだから、という低俗な理由で志すのは、本気で目指している人に失礼だろう。


「エントリーは明日締切らしい。だから、それまでに聞かせてくれ、姫野の答え」

「…………うん」




 ※

 先輩はどうするんだろうか。

 結局あの後、俺はその場を逃げるように去り、自主練もせずに家に帰ってきてしまった。


「はぁ……」


 盗み聞いていたことを知られてない以上、俺から先輩に連絡するのはおかしい。先輩からの連絡を待つしかないのだが…………。


「うがぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 ダメだ。何にも集中できない!

 軽くランニングして頭を冷やそう。

 俺はジャージのまま家を出る。


「先輩…………」


 玄関先で立ち止まって正面の姫野先輩宅を見る。数秒見つめた後、俺は小走りに街中を巡り始めた。


 夜九時を少し過ぎた今は、帰宅するサラリーマンの数もまばらで、道を往来する人は少ない。

 街灯が道を照らしてくれているので、ずっと先まで道が見える。


「…………」


 きっと姫野先輩は今、悩んでいるに違いない。

 俺とインターハイを目指すか、工藤先輩と目指すか。

 もちろん俺は先輩とインターハイに行きたい。そしてそこで俺の彼女への想いを打ち明けるつもりだった。



 だけど、彼女の抱える物は俺のとは桁違いだった。


『私はインターハイに行かなくちゃいけないんだ。』


 今思えば、あの言葉から感じられた使命感は『兄の代わりに私がインターハイに行く』という事だったのだろう。

 それも知らずに俺は……!


 何が良い感じだ……! 何が信頼関係が出来ているだ……!

 俺は何も……先輩のことを何も知らなかったじゃないか! 抱えている物を何も察してあげられてなかったじゃないか!


「ッ……!」


 情けない。

 仲良くなったくらいで調子に乗って、見ているフリして結局は自分のことしか見えていなかった。

 こんなんだから、先輩を惑わせてしまうのだ。


「強くならなきゃ……」


 強くならなきゃいけない。

 部の誰にも負けないくらい心も体もテニスも、強くならなきゃいけない。

 そして先輩に────



「あれ、敦也くん?」



「?! ひ、姫野先輩……?」


 考え事をしながら走っていたせいか、反対方向から来ていた姫野先輩に気付かなかった。

 先輩はオーバーサイズのグレーのトレーナーにグレーの短パンというラフな格好でコンビニのレジ袋を持っていた。


「コンビニ行ってたんですか?」

「うん、お風呂上がりのアイス切れてて」


 お風呂上がりにアイス食べるんだ、可愛い……。

 いやいや! 今はそんなことを思っている場合じゃないだろ!


「敦也くんは何してるの?」

「え?! あ、俺は頭冷やそうと思って軽くランニングを」

「何か悩み事?」

「え、いやぁ……」


 流石に今日の姫野先輩と工藤先輩のやり取りを聞いていたとは言えないよな……。


「だ、大丈夫です」

「そう? ……てかまずったなぁ……」

「どうしてです?」

「だ、だって知り合いに会うと思ってなかったらすごいラフな格好だし化粧もしてないし……」


 いやいやすごい可愛いですけど?!

 むしろそれ聞いて、普段と差が無さすぎてビックリしてますよ!


「せ、先輩は気にすることないくらい可愛いです!」

「ふふっ、ありがと」


 絶対お世辞として流された……。結構勇気振り絞ったんだけど!


「それで、敦也くんの悩み事は解決したの?」

「あ、いえ……」


 というか、解決も何もないんだよなぁ……。

 俺が先輩に「行かないで。俺と組んでいて」と言えば済む話なんだろうが、今の俺にはそれを言う勇気がない。

 言えるだけの実力がないから。


「ほ、本当に大丈夫です……」

「そっか……」


 ごめん先輩……。言えなくてごめん。言う勇気がなくてごめん。


「敦也くん」

「はい……?」

「私を、インターハイに連れて行ってくれるって言ったよね?」

「っ!」


 先輩から話を切り出してきた。


「い、い……言いました」

「その気持ちは今でも変わってない?」

「も、もちろんです……! でも……」

「でも?」


 俺は先輩とインターハイに行きたい。

 でも自信が無い。

 工藤先輩たちに負けている時点で、インターハイなんて夢のまた夢。俺は強くない。


「自信がないんです……」

「自信……?」

「先輩を……いや、先輩とインターハイに行ける自信がないんです」


 インターハイに行きたいという気持ちに変わりはない。でも、俺のようなお荷物が先輩と組んだところで、俺の実力では、先輩の実力を引き出せないのではないかと思ってしまう。


「大見栄張っておいてなんだって話ですよね……すいません」

「…………」


 失望されただろう。無駄な練習時間だったと落胆しているだろう。

 泣くな……ッ! 泣きたいのは先輩の方に決まってるんだから……ッ! 期待を裏切った俺を先輩はきっと憎んでいるんだから……ッ! だから目から溢れ出そうになる涙を堪えろ……ッ!


「敦也くん……」

「ごめんなさい……っ! 本当にっ…………!」

「敦也くん、聞いて」

「俺は弱いんです……! 先輩とペアを組める実力なんてない奴なんです……!」


 悔しい……! 強くなりたい……! 誰にも負けないくらい強く! 先輩の夢を一緒に背負えるくらい強く!

 でも今の俺じゃ……


「敦也くん聞いて!」

第15話ありがとうございました!!

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