第14話「なんの為に頑張ってるんだよ」
・シングルスライン-コートのサイドにある一本内側のライン。シングルスではこれより外がアウトゾーンとなる。
※
模擬試合。俺姫野先輩ペアvs小鳥遊工藤先輩ペアの試合は、ゲームカウント2-4で向こうのペアがリードしている。
「敦也くん、次のゲームなんだけど、私に考えがあるの」
「考えですか?」
「うん。コースを絞らせよう」
「コースを?」
確かにコースを絞れば、現状のやられっぱなしの状況を打破出来るかもしれないが……。そんなに上手くいくだろうか?
「とりあえず、試しでいいから敦也くんは私の言った所に立ってみて」
「わ、わかりました。それで作戦って?」
「えーとね────」
「え、本当にやるんですかそれ。万が一打たれたら……」
「でも敦也くんなら返せるでしょ?」
7ゲーム目。
これを落とせばこちらの負けにリーチがかかる。ここで体勢を立て直し、流れをこちら側に持っていきたいところ。
俺はサービスラインとベースラインの間に立った。
「面白いことを考えたな。木ノ下君の発案?」
「いえ、姫野先輩が」
「なるほど」
ネットを挟んで会話する俺と工藤先輩。工藤先輩は姫野先輩の発案と知ると笑った。
姫野先輩のサーブ。これでどう形勢が傾くか────!
「んッ!」
先輩のサーブは相手のサービスボックスのシングルスライン側の角を突くフラットサーブ。
この時、小鳥遊には二つの打てるコースがあった。
クロスに打ち返すコースと、俺のサイドを抜くコース。
「ッ!」
だが俺は小鳥遊が打つより先にセンター寄りに走り出し、彼女の思考を惑わす。
彼女は当然、俺によってボレーされるのを警戒する。
すると、鋭い小鳥遊は俺のサイドにスペースが出来ているのを見つける。そして姫野先輩は初期位置から動いていない。
「んっ!」
来た! サイドのオープンスペースへのストレート。
俺は右足首をキュッと捻りコートを蹴る!
「ッ!」
ボレーの基本はラケットを振らないこと。ボレーヤーはラケットの面を構えボールに当てるだけでいい。
小鳥遊の放ったボールが、まるで俺のラケットに吸い寄せられるかのように、俺が用意したラケットの面の中央に当たる。
パコーンッ!
「「なっ……?!」」
工藤先輩の真後ろを射抜いた俺のボレーは、誰のラケットに触れることなく二回目のバウンドを果たした。
『多分工藤くんには正攻法じゃ勝てない。そして心ちゃんのPSも高い。なら、正攻法ではないやり方で────』
「よしっ!」
『名付けて『奇襲奇襲作戦』!!!』
ネーミングはもうちょい考えた方がいいと思う。
「敦也くんナイス!」
「はいっ!」
その後、完全に流れを我が物にした俺たちは、小鳥遊工藤先輩ペアに2ゲームを返すが、最後は押し切られゲームカウント4-6で敗北した。
※
部活が終わり、自主練の準備をしながら、俺はふと考える。
俺と姫野先輩って、なんだかんだで良い感じじゃないか?
と。
うん、なんか良い。
具体的に何がどう良いのかは説明できないが、何か良いと思う。
もう信頼関係を構築出来ているというか、付き合う三歩手前に既にいるというか。
うん、こんな感じ。
息もピッタリだし、家は目の前だし、お互いのことを分かりあってるというか。
悪くないんじゃないだろうか。
おっと、これから自主練を始めようという時に尿意がやってきやがった。
仕方ない、トイレで用を足してから自主練をしよう。
そう思い俺が校舎に入りトイレに向かう途中で、中央階段から話し声が聞こえてきた。
「なあ、傑先輩は元気か?」
「うん、元気にしてるよ」
それは何度も脳内で再生したことのある声────姫野先輩。質問をしているのは多分、工藤先輩か。
俺はそっと聞き耳を立てる。
「戻ってくる気は……?」
「ううん、無いみたい」
「そっか……」
何の話だ……?
傑先輩って誰だ……? 戻ってくる気って何にだ……?
「でももう大丈夫なんだろ?」
「うん、それでもまだ、勇気が出ないみたい」
「姫野は……姫野はそれでいいのか?」
「よくないよっ!」
…………っ!
先輩が声を荒らげるのを初めて聞いた。普段声を荒げない先輩が声を荒らげるような話って一体……?
「よくないけど……仕方ないんだよ……」
「姫野……」
先輩もその傑先輩が戻ってくることを待っている。ということは、テニス部……?
テニス部に戻ってくることを二人が心底願っている人物。高三にいるのか、その人が。
「もう私には、私たちには何も出来ないの……。願うことしかできないんだ……」
「諦めんなよ……! じゃあ姫野はなんの為にこの二年頑張って来たんだよ!」
「……っ!」
姫野先輩に頑張る理由を与えた人物。
「見せたいんじゃないのかよ!」
「見せたいよ……! 見せたいに決まってるじゃん! でも本人が嫌だって言うんだから私にはどうしようもないの……!」
「じゃあ姫野は今、なんの為に頑張ってるんだよ」
「……っ!」
…………。
「わ、私が頑張る理由……」
「傑先輩に勇気を出させられるのは姫野だけなんだよ」
「そうかもしれないけど……」
「姫野傑をもう一度コートに呼び戻せるのは姫野しかいないんだ」
工藤先輩は「だから────」と続ける。
「俺とペアを組もう姫野。俺がお前と、傑先輩をインターハイまで連れて行くから」
第14話でした!
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