第13話「好きでしょ?」
・ボレーヤー-ダブルスの際に前衛に出る人。
・チェンジ-前衛と後衛がサイドを入れ替えること。ボレーヤーの守備サイドに、ボレーヤーが取れないボールが来た時に行うことが多い。
・ストローク-ワンバウンドしたボールを打球するショットのこと。
※
「心ちゃん凄いじゃない!」
「えへへ、ありがとうございますっ!」
「まあ! 愛想の良いこと」
私は貰ったばっかの賞状を両手で摘み、カメラに向かってニコッと笑う。
名前も知らないオバサンに賞賛されながら、私は愛想を振り撒く。
「これなら将来有望ね! あなたたち、どんな教育をしたらこんな出来の良い子が育つのよ」
「ははっ、全て心の努力の賜物ですよ。僕達は心に環境を与えただけに過ぎません」
パパは照れながらそう答える。
ピアノのコンクールでの優勝は、私の人生に自信を付けされてくれた。そして同時に、二度と消えてくれないキズを刻印した。
私はその後も、ピアノの他にバレエや絵画、中学ではバドミントンで、目まぐるしい成果を叩き出し、先生や同輩、先輩後輩にまで一目置かれる存在となった。
しかし一つ問題があった。私は飽き性なのだ。
成果を出した物は、何一つとして一年以上続いたことがない。すぐに次の物へ切り替えていってしまう。
そして私は、中学三年生の秋に、テニスと出会った。
中学の部活では、成果という成果を出す機会がなく、高校でもテニス部に入ってしまった。
女子部内戦3位という結果は、一年生にしては十分に賞賛される結果だろう。
しかし、まだ足りない。
結果としては弱すぎる。
私はもっと成果を出せる。私はもっと強い相手に勝てる。私はもっと強くなれる。
ミックスダブルスを選んだのはただ面白そうだから。そして、敦也と組めば私は私をもっと強くできると思ったから。
なのに……! なのにこの女は……ッ!
「葵先輩、敦也の好きな人知ってますか?」
「え?」
昼休み、階段の踊り場で私は呼び出した葵先輩に言った。
敦也には悪いが、敦也の恋心が葵先輩にバレてしまえば、ペア解消となり、私のペアと交代出来るかもしれない。
「知らないけど……。そもそもいるの?」
「いますよ」
まあ、あのテニス馬鹿は四六時中テニスのことを考えてそうだからそう思うのもわかるけども。
「知りたくないですか?」
「え……?」
人間って言うのは単純で、面白い話や恋バナが大好き。それが「知りたい」と言うだけで教えてもらえるのなら、断りはしないだろう。
「別にいいかな」
「……え?」
「んー、別に気にならないなー。敦也くんが誰を好きであろうと、私たちはペアだし、テニスと恋愛は別物だしね」
…………。
「そう……ですか」
「うん。どうしてそんなこと話そうとしたの?」
「え?」
どうしてって……そりゃあ、あなたたちペアを解散させて私が敦也とペアを……。
「心ちゃん、敦也くんのこと好きでしょ?」
「はい?!」
何を言い出すかと思えばこの人、私が敦也を好きだなんて……! 月がスッポンに惚れるようなものよ!
「違うの? この前も恋バナの話振って来たし、部内戦の時も……。てっきりそうなのかなぁって」
「ち、違います!」
ありえない!
私があのテニスにしか脳のない馬鹿を好きになるわけがない!
私は欲しい物はなんでも手に入れることの出来る女、小鳥遊心よ?!
「そう? ならいいんだけど」
「も、もちろんです! 確かに仲は良いですけどただの友達です! 勘違いしないでください!」
そ、そうよ! 私たちは友達! それ以上でも以下でもない!
「あ、もうそろそろチャイムが鳴るから私行くね」
「あ、はい……」
それだけ言うと、私を置いて上階へ行く葵先輩。私も下階へ行って自分の教室に戻る。
「あ、小鳥遊どこ行ってたんだよ」
あくまで友達。
クラスが同じになっていなければこうも仲良くなっていない程度の友達。
この高校に入っていなければ出会うこともない友達。
私と敦也はただの友達なのだ。…………………まだ。
※
今日の部活では、今週末に迫る県大会予選を見越して練習をすることになった。
ミックスダブルスに出る俺と姫野先輩のペアと小鳥遊と工藤先輩のペアは、本番の形式で練習することになった。
「敦也くん、ちょっと」
「はい?」
姫野先輩に手招きされた。
「敦也くんの実力を信じてないわけじゃないんだけど、工藤くんに強打じゃ勝てないから、コントロール重視でやってみて」
「? ……わかりました」
よくわからないが、姫野先輩が言うのだ従っておこう。
向こうの布陣は俺らと同じ雁行陣で、小鳥遊がバックサイド。
練習とはいえ本番の前哨戦。最初から本気で行こう。
「んッ!」
一発目はセンターラインギリギリを狙った俺のフラットサーブ。工藤先輩はそれを回り込んでフォアで返す。
回り込んだことで打てる範囲が絞られ、ボールは当然姫野先輩の守備範囲に。
「っ!」
ブロックボレーが少し浮き、工藤先輩をさらにバックサイドに寄せる。すると当然チェンジが行われ、俺と工藤先輩が正面で対峙する形になる。
工藤先輩は緩めのストロークで俺にボールを打つ。
「ッ!」
緩んだボールをすかさず俺は打ち返し、工藤先輩もそれを取る。
打って打たれ打って打たれのラリーが続き、どちらの集中力が先に切れるかの勝負になる。
「……ッ!」
「……ッ!」
「……ッ!」
「……ッ!」
工藤先輩のボールは強いが、打ち負けるほどではない。
「ッ!」
ミスらない。ボールが安定していて一切のブレがない。
テニスが上手い人には二種類ある。
一つ目は、スマッシュやサーブ、ストロークなどの技術が卓越していて、俗に上手いと言わしめることの出来るプレイヤー。
二つ目は、ミスをしないプレイヤー。
どんなボールを打っても打ち返してきて、決して強打を打つわけではないがしっかりボールをコントロールしてきて、相手の集中力が切れるのをひたすら待ち続ける。
工藤先輩は後者にあたる。
「くっ……!」
瞬間、俺の打点がブレた。
やばい……! ボールが緩くなった……!
「ッ!」
「ちぃ────ッ!」
俺のミスに気付いた小鳥遊がボレーで俺のボールを打ち込み、俺はボールに飛びついてなんとか返す……が、
スパーンッ!
……と、工藤先輩によってオープンスペースとなっていた俺と姫野先輩の間を打ち抜かれてしまった。
「ナイスです先輩!」
「おう」
小鳥遊と工藤先輩が軽いやり取りを交わす。
するとすぐに姫野先輩が俺に駆け寄って来た。
「ごめん敦也くん、動けなかった」
「いえ、俺が先に集中切らしたのが悪いです」
「ううん、私が動けていれば……」
「次から改善していきましょう」
「うんっ!」
自ら小鳥遊と組みに行くという行為からも察していたが、工藤先輩は自分のプレーを信じている。自分の腕を信頼している。
「強い……っ!」
冷汗が俺の頬を滑り落ちた。
第13話でした!
テニス要素ありラブコメ要素もありのてんこ盛りでした!
まあ、自分で書いておいてなんですが、こんな回りくどい恋愛はしなくないなぁと常々思います。ラブコメはあくまでフィクションだから面白いんですね〜
そんな感じで、これからも彼らの回りくどくて面倒臭い恋愛にお付き合い下さい。
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