第12話「でもやるしかねぇ」
・フォアサイド-自陣コートの右側
・バックサイド-自陣コートの左側
・雁行陣-前衛と後衛に分かれる陣形。サーブ側はゲーム内で前後は入れ替わらないが、レシーブ側は1本ごとに前後を入れ替える。
・ブロックボレー-ノーバウンドで相手のショットをブロックするように返すボレー。ボレーの中の1番基本的なボレー。
※
練習の仕方は、俺と姫野先輩がペアを組み、大賀と小鳥遊がペアを組むというミックスダブルスの形。
大賀に、シングルスでの出場なのにそれでいいのか、と聞いたところ「勝てるから大丈夫」なんだそうだ。俺も言ってみたいぜ!
「じゃあ先輩、お願いします」
「うん! よろしく敦也くん!」
ダブルスの陣形は雁行陣で、まだフォアとバックのどちらの方が得意かわからないため、とりあえずは俺がフォアサイド担当となった。
初めての練習だが、姫野先輩に恥ずかしいところを見せるわけにはいかない。
「そんじゃいくぞ敦也」
「おう、来い!」
俺は先輩とミックスダブルスに出る男! 大賀のサーブくらい軽々返してみせ────
スパンッッッ!
「…………へ?」
大賀の放ったサーブが、サービスボックスにバウンドして、俺の背後の防球ネットに当たる。
微動だにしない俺を見て、大賀は「ふっ」と笑うと、
「おっと、手が滑った」
「〜っ!」
言ってくれるじゃねぇかこの野郎!
「もう一発打ってこい!」
「ほんじゃ、いくぞ」
スパンッッッ!
「くっ!」
大賀の放った剛速球を俺はなんとかクロスに返す。
雁行陣のため、俺の正面には小鳥遊がいる。ロブを打てば取られることはないだろうが、その分大賀に強打される可能性がある。
「ふっ!」
「くっ……!」
お互いに前衛を警戒し、クロスにボールを打ち合う。少しでも弾道がズレればこちらは小鳥遊に詰められ、向こうは姫野先輩に詰められる。
「これなら……っ!」
俺は深く踏み込み、重心を落とし、ラケットを振り上げるのに合わせ重心を上へ、バネのように伸ばす。
そうすることで通常以上のトップスピンを生み出し、回転量の多い、鋭くスピードのある低弾道のボールが放たれる。
「ちっ────!」
ボールは相手コートのネット近くにバウンドし、コートの横サイドから飛び出て二回目のバウンドに突入する。
しかし流石は大賀。弾道からすでにその後を想定し走り出していて、体勢を崩しながらもボールを取った。
だが────
「んっ!」
その一瞬の隙を、俺のダブルスペアは見逃さない。
姫野先輩は大賀がボールを拾った瞬間、ボールの弾道を予測しラケットの位置を合わせた。そして放たれた華麗なブロックボレーは、オープンスペースになっていた相手コートの中央を駆け抜けた。
「敦也くんナイス!」
姫野先輩は俺の方を振り返って笑う。
「先輩もナイスです!」
「ありがとう! 敦也くんが良いボール打ったからだよ」
「そうすかね」
「そうそう!」
ほ、褒められてる……!
姫野先輩に褒められてるよ俺!
「大賀のサーブめっちゃ強いので覚悟しといてください」
「りょーかいっ!」
俺と先輩は前衛と後衛を交代し、俺がフォアサイドのサービスボックスの中に立ち、先輩がベースラインに立つ。
あれ……大賀の目つきめっちゃ鋭……
スパーンッッッッッッッッ!
「うっ……!」
えげつな! 女子に対して放つサーブじゃないぞそれ!
いや、練習だからいいのか?!
「ごめん上がった!」
「はい!」
やはりあの威力のサーブを返すのには腕力的に無理があったのか、ボールはフラフラとした高い弾道で向こうのコートにバウンドする。
大賀はすでに回り込んでいて────
「くっ!」
強く打ち込まれたフォアハンドストロークを、俺は辛うじてブロックし、ボールは小鳥遊の頭上へ────
「ふんっ!」
「うっ……!」
見事なスマッシュ。
俺の返しが甘かった……!
「ごめん敦也くん! 返しが甘かった」
「いえ、あれは仕方ないと思います」
「やばいね中山くん。あの威力のサーブを正確にコントロールしてくるなんて」
「いや……それよりも……」
俺が大賀の方を向くと、俺の視線に気付いた大賀は、
「ふっ」
めちゃくちゃ本気なんですけどあいつ!
※
予約したコートでの練習時間は二時間。
その間で、俺と先輩はお互いのプレイスタイルを知り、俺がフォアサイド、先輩がバックサイドを持つこととなった。
そして翌日、
「まさか本当にペアになるなんてな」
「まあなー、俺も正直実感湧かねぇし驚いてるよ」
俺と大賀は教室でそんなことを話していた。
「まあでも、これで一歩近付いたな」
「そうだな」
そうだ。当面の目標は先輩とインターハイに出場すること。
そのためには今週末に迫る県大会を勝ち抜き、六月の関東大会を一位で通過しなければならない。
「道のりは遠そうだな」
「あぁ、でもやるしかねぇ」
そして俺は、インターハイで先輩に…………
「ニヤけてるぞ」
「デュへへ」
「腹立つ顔してるな」
元からだよ。
「とりあえずは目先の県大会だな」
「あぁ…………ってか小鳥遊はどうした?」
俺の問いに「あーあいつは……」と言う大賀。
「昼休みが始まって速攻教室を出てったよ」
「なんでだ?」
「さあ?」
※
「葵先輩、敦也の好きな人知ってますか?」
第12話でした!
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