プロローグ
多くの人が密集し、そしてその集団は円形を成している。円形の中には、橙色に染まった炎が縦に激しく燃えていた。
人々の顔つきは皆同じ色をしており、そしてその色は憎悪と嫌悪で染め上げられていた。
「殺せ!!」
「お前なんて死んでしまえ!!」
「おぞましい魔女め!!」
禍々しさを煮詰めたようなその色は、人の欲を発散させるかのように、また外であるはずなのにも関わらず換気をしていない地下にいるような息苦しさを感じさせた。
そんな薄汚い欲を飛ばす先は、なんと一人の少女であった。
10代前半、明らかに子供だ。まだあどけなさを残すその少女の表情は、この世の終わりかと錯覚するほどに絶望に満ちていた。
その絶望が、「死」という絶望なのか、はたまた別のなにかかは分からない。
その少女の周りには、少女を取り囲むように炎、また炎の内側、つまり少女の直ぐ側に武装した傭兵のような者たちがざっと30名。それ以上いるかも知れない。たかが少女一人。それなのにも関わらずなんと重装備な。
少女の必死の問いかけにも罵声を浴びせる集団は、端から見れば不愉快極まりないものだ。
「わたくしはなにもしていませんわ!!なんで、どうして分かってくれないの……!?」
「黙れ魔女め!!言い逃れなどさせはしない……!!貴様は悪魔だ!!」
「何を頭のおかしいことを……」
悪魔などと、現実離れした言葉が行き交う。少女の額には汗が滴り落ち、その言葉に心底幻滅している様子だ。
「なんとおぞましい…!!」
「我々を取り入ろうとしても無駄だ!!」
「きしさま、はやくころしてー」
子供ですらも、ただの傭兵を騎士という神聖なものへ格上げしている。
そこまで、この少女が悪で、その少女を討ち滅ぼそうとする人が正というふうに、人々の頭にこびりついて離れない。それが常識になっている。
少女はやはりこの現実を否定し続けている。「やめて」「わたくしはなにもしていない」「とんだ言いがかりだ」そんな言葉を、必死に必死に叫んでいた。
次第に武装した傭兵の顔色が赤く染まり、耐えかねないというふうな表情へと変化していく。
「もうよい……」
ポツリと傭兵がつぶやいた。
その瞬間、少女は死を感じ取り、頭の中にこれまで経験した全てがゆっくりと、物語を見るかのように流れてきた。
その少女の生は、せいぜい十数年。あまりにも短すぎる生涯で幕を閉じる。
「貴様は死罪だ!!」
先程つぶやいた傭兵が、少女の首を、白く満ちた魔法で伐ち落とした。
その瞬間、一時の沈黙の後。
周囲は歓声で包まれた。
やっと、やっと悪魔が死んだ。禍々しい人間が死んだ。悪は途絶えた。人々はそう信じて疑わない。
少女の視界は赤黒いもので覆われ、瞬時に血の気が消えていく。それが自分の血だと、少女に理解することができただろうか。
少女にはもう、感覚などなにもない。痛みも、苦しみも、悲しみも何もない。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
ただ一つ、少女の息が途絶えるその瞬間、
少女の視界に、ちらりと“なにか”が光った気がした。




