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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第七章 八重野奈波 17歳
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幸福と使命

――その夜。


風呂上がりの奈波は、髪をドライヤーで乾かしながら須崎の言葉を思い出していた。

(42回……あの須崎という男、何か知っているな)

おそらく、彼は善き者の刺客の可能性が高い。

今までの経験から、善き者の刺客は生きている人間を宿主にすることが多いため、須崎も身体の一部を乗っ取られたと思われる。

(私も奈波の身体を借りて半年ほどが過ぎた。この生活にも慣れたと言えば聞こえはいいが、私の精神や思考が薄れつつあるのも事実だ。それだけ、この娘の海斗に対する想いは強い。もうこのまま幸せな人生を選んでも構わないような気がする)

……しかし、奈波は鏡を見ながらブルブルと頭を振った。

(ダメだ……ダメだダメだダメだ! しっかりしろ、その甘い考えが敵の思うツボだと言うのに。私には使命があるんだ、思い出せ!)

奈波は少し乱暴にドライヤーを置くと、深く深呼吸をして心を落ち着かせる。

「明日、メモヴェルスの欠片を探しに行こう。海斗のイーテルヴィータを確定しないと、話が先へ進まなくなる」


それから一週間、奈波は学校が終わると毎日のように新宿駅に通ったが、メモヴェルスの光に触れた人間はまだ見つからない。

この様子だと、都内にある可能性は限りなく低いと思われた。

(おかしいな……まったく引っ掛からない。東京か品川駅に向かった方がいいのか?)

奈波は次の日、新幹線の発着所である東京と品川駅を探ることに決めた。


……その予想は的中し、メモヴェルスの光に触れたと思われる人物が、東海道本線の終着駅である東京駅で降りたのを確認する。

その人物はスーツを着ており、おそらく出張で東京に来たのだと考えられた。

奈波はしばらく尾行して何処から来たのかを確かめると、カフェで関西弁を話していたので、大阪や兵庫といった関西方面から来たのかもしれない。

(大阪か……かなり遠いな)

奈波は注文したコーヒーを飲み終え、カフェを出ようとした。

そしてカフェのドアに手を掛けた時、急に周囲の光景がグニャリと(ゆが)み始める。


(’な、なんだ……?)


奈波は戸惑(とまど)いながらドアを開けて外へ出ると、目の前に道頓堀の巨大なグリコサインが現れ、彼女はしばらく口を開けてポカンとしてしまう。

(えっ……ここは……大阪?)

すると、背後から千里の声が聞こえたため、奈波は驚いて振り返る。

「どうしたの? 口開けて立ってるとバカみたいだよ」

「ち、千里? ここって大阪なの?」

「どういう意味よ、大阪に決まってるじゃん。ここは有名な道頓堀だけど、奈波が見たいって言ったからわざわざ来たのに」

「これって旅行か何か?」

「おいおい~、しっかりしなよ。私と愛華の三人で計画した大阪旅行じゃん。それに、大阪に行きたいって言ったの奈波なんだからね! あんた新幹線で寝てたから、まだ寝惚(ねぼ)けてるんじゃないの?」

千里が腰に手を当てて呆れたような顔をする。

「コンビニでアイス買って来たよ~。こっちは千里が好きなチョコ味。こっちは奈波が好きなミント味」

「あっ愛華、ちょっと聞いてよ! 奈波って大阪に来たこと忘れちゃってるみたいなんだ」

「は? どういうコト? さっき新幹線で寝てたから、まだ寝惚けてるのかもね」

奈波は何処かで聞いたような会話に首を(かし)げるも、二人に状況を合わせるため、慌てて話題を変える。

「そ、そうなんだ! ちょっと寝惚けてるかも。ようやく旅行のことを思い出したよ」

「まったく……奈波はしっかり者だけど、時々抜けてるからオモロいんだよね~」

千里と愛華の二人は一緒に笑い出した。

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