奈波と須崎
「えっ、大学は何処を受験するかって?」
高校2年生の夏、奈波は千里にこんな質問をされ、しばらく考え込んでしまう。
「奈波は1年生の時から成績良かったもんね。やっぱり東大にチャレンジするとか?」
「う~ん、それも面白そうだけど、ちょっと気になってる大学はあるんだ」
「何処よ?」
「ああ~、ダメダメ。この子は前から決めてる大学があるの、私は知ってるから」
愛華が、横から会話に口を挟む。
「だ・か・ら、何処なのよ?」
「東京外語大だよ。B組の穂積が受験するから」
愛華の言葉で、奈波は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「穂積か……やっぱりな~。最近はしょっちゅう会ってるからね」
「いや、まあその……会ってるのは確かだけど」
「20人の告白を断った伝説のあんたが、あんな冴えない穂積に一途とか……世の中どうなってるワケよ? 断った中には須崎先輩もいたんだからね!」
「えっ、本当なの奈波!? あのイケメンで有名な須崎先輩をフルとか、どんだけ罪深いんだよ」
矢継ぎ早に問い詰められ、奈波はしどろもどろになってしまう。
「あ、あのさ……勝手に二人で盛り上がらないでくれる? それに、告白を断ったってのも大袈裟だと思うけどな」
「うわあああ、モテる女の嫌味は心に刺さるね~。愛華、涙を拭くからハンカチを出して!」
愛華はサッとハンカチを出すと、千里は涙を拭くような素振りを見せる。
そのやり取りを見ていた奈波は、思わずフフフと笑い出してしまう。
「でもさぁ、奈波って穂積と付き合ってることになってるの?」
「えっ……いや……そういう関係じゃないけど」
「嘘でしょ!? そんなに長いこと引っ張ってるの? あんたバカじゃん」
「……言い方がキツイな」
「大丈夫だって、奈波から告白しちゃえば一発OK貰えるから。私たちが保証する」
「高校生活は短いよ~。受験シーズンの前に青春を満喫しときな」
そう言うと、千里は奈波の背中をパンパンと叩いて、教室にある自分の席へ戻って行った。
――放課後。
奈波は海斗と会うため、図書室へ向かっていた。
千里が言う通り、奈波は学校でちょっとしたアイドルなので、二人だけで会っているのはすでに噂になっている。
海斗を強く妬む者もいたが、彼自身は特に気にする様子もなく、その潔さが奈波にとっても頼りがいがあるように見えていた。
……そして奈波は足早に廊下を歩いていると、前方から先輩の須崎が歩いて来るのが見えた。
「あっ……須崎先輩」
「やあ、奈波ちゃん。元気?」
「は、はい。元気です」
やはり告白された手前、断った奈波には罪悪感が少しだけ残っている。
「やだなぁ、よそよそしくしなくていいよ。俺が君を勝手に好きになったんだから」
須崎の言葉はいつもストレートで、奈波も告白された時はドキリとした。
しかも端正な顔立ちのため、奈波と同じく学園のアイドルとして、女学生からの人気も極めて高い。
「図書室へ行くの? 確か今は穂積君と付き合ってるんだよね?」
「えっ……誰がそんなことを?」
「さすがに君みたいな有名人は隠せないと思うよ。俺だって君にフラれた時は、すぐに噂が広まったからね」
……その時、須崎は奈波の腕を強く掴んだ。
「痛っ! 放してください!」
「妬けちゃうなぁ。俺と比べて、あんな奴の何処がいいんだよ? どう見たって、俺と付き合うのがこの学校でベストでしょ」
「ベストかどうかは私が決めます。穂積君が待ってますから、いい加減にその手を放してください」
須崎の手を奈波は振り払うと、彼の横をすり抜けて図書室へ向かおうとする。
「そうか……じゃあいいことを教えてあげよう。もう42回、穂積海斗は死んだんだよ。彼を助けなくていいのかい?」
「えっ……」
奈波は須崎の言葉に驚いて振り返ったが、すでに須崎の姿は消えていた。
(42回……?)
その数字に奈波は胸騒ぎを覚えたが、すぐに図書館へ駆け足で向かい、いつも海斗と会う机の席に座った。
(まだ来てないな……)
心臓の鼓動が異様に早くなり、奈波の額から少しだけ汗が流れ落ちた。
「どうしたの? ずいぶんと汗をかいてるようだけど、もしかして走って来た?」
すると、背後から聞き慣れた声がしたため、奈波は笑顔で振り返ると、そこには参考書を手にした海斗が立っていた。
(なんだ……ちゃんと生きてるじゃない。心配して損したよ)




