奈波と海斗
――次の日。
奈波は朝起きて着替えると、都内を探すため家から近い駅へ向かった。
出掛ける時、父親の八重野兼人が「何処へ行くんだ? 学校はどうした?」と心配して尋ねたが、奈波は学校が休みだと嘘を吐いて誤魔化した。
罪悪感はあったが、この状況だと背に腹は代えられない。
(それにしても今日は寒いな……冬だから仕方ないけど)
駅へ向かう途中、そんなことを考えていた奈波は、急に立ち止まって違和感のようなものを覚える。
「あれ……? 確か熱海駅へ飛ばされた時は夏だったような気がする」
熱海での出来事を思い出すと、千里と愛華がアイスを美味しそうに食べていたため、冬の季節には不向きな食べ物だと思われた。
(そうか……分かったぞ! 刺客はメモヴェルスの欠片を転送したと言っていたが、あれは過去を書き換えて、場所を移動したように見せ掛けたんだ。危うく騙されるところだった)
刺客の手口が分かれば、こちらも相応の対策を講じることができる。
奈波は駅までダッシュし、新宿駅までの切符を買って電車に乗り込んだ。
――そして新宿駅へ到着すると、奈波は改札を出て中央通路の途中で立ち止まり、目を閉じて瞑想状態に入った。
(ここは様々な路線のハブになっている駅だ。きっとメモヴェルスの光に触れている人が通るはず。集中しなきゃ……)
奈波はしばらく目を閉じたまま集中したが、予期せぬ声で邪魔されてしまう。
「おっ、ちょっとカワイイじゃん。ねぇ、一緒にメシでも行こうよ。奢るからさ~」
急に声を掛けられたため、奈波は驚いて目を開けると、金髪のチャラそうな男が立っていた。
「なんですか?」
「ナンパだよナンパ。おおっ! 目を開けたらメチャクチャカワイイじゃん。平日の朝に一人ってことは、なんかワケありな人?」
「朝っぱらからナンパですか……それに私、ワケありでもなんでもありません」
「でも一人だと寂しいっしょ。話を聞くから一緒にメシに行こうよ~」
「しつこいな、絶対に嫌です」
「いいからいいから! とりあえず、近くのカフェに連れてってやるよ」
そう言うと、金髪の男は強引に奈波の手を引いて連れて行こうとする。
「ち、ちょっと! 放してください!」
「ヤダね。あんたみたいなカワイイ子、簡単に諦められるかっての」
「あの……どうかしました?」
その時、背後から声を掛けられたため、金髪の男は慌てて振り向く。
(えっ……)
見ると、二人に声を掛けたのは穂積海斗だったので、奈波は目を丸くして驚いた。
「なんだおまえ? 邪魔すんじゃねぇよ」
「邪魔なんですか? 彼女、嫌がってるように見えましたけど」
奈波は素早く金髪の男の手を振り払い、海斗の背後へ隠れた。
「もしかして彼氏? ここで待ち合わせしてたとか?」
「いや……彼氏ではないですけど、前にクラスメートだった時があるんで」
「俺さ、ナンパしてたのよ。彼氏じゃないなら黙っててくれないかな?」
「八重野さん、嫌がってたよね?」
……海斗に質問され、奈波はコクリと頷く。
「じゃあナンパは失敗ですね、このままお引き取りください。あ、ちなみに俺、空手の大会に出てますよ。今は本格派のボクシングジムに通ってます」
「私は合気道初段」
「……いっ!」
金髪の男は二人の言葉を聞くと、俯きながら悲し気にその場を去った。
「ふ~、とんだ災難だったようだね、八重野さん」
「あの……どうしてここに? 学校へ行かなかったの?」
「えっ、今日は高校の創立記念日だから、休みになってたの知らないの?」
……奈波は海斗の話を聞いて絶句し、しばらく黙ってしまった。




