現実と夢
奈波は驚いてその男を見る。
今まで気が付かなかったが、タキシード姿の男は背丈が2メートルを超えており、奈波が思い切り顔を上げないと、視線が合わないような大男であった。
「刺客だな!」
「その通りでございます。名はソルニトスと申しますので、以後お見知りおきを」
奈波は旅行鞄を両腕で抱え、即座に後ろへ下がってソルニトスから離れる。
「おやおや、そこまで警戒するとは。私に明確な敵意でも感じるのですか?」
「さっき、メモヴェルスの欠片を何処かへ転送すると言ったな! 私が熱海駅へ飛んだのも、おまえの仕業なのか?」
「……左様。我々の手に掛かれば、貴方一人を遠くへ転送するのは造作もないこと。大人しく私にメモヴェルスの欠片を渡しなさい」
「丁重にお断りするわ」
「……往生際の悪い娘さんだ」
――次の瞬間、ソルニトスは前へ飛び出して奈波の首を鷲掴みし、高々と頭上に持ち上げた。
「がっ!」
「ご安心なさい、絞め殺したりはしません。その鞄にメモヴェルスの欠片が入っているのですか?」
「う、うるさい……!」
「やれやれ、勝手に探しますよ」
ソルニトスは落ちている旅行鞄を手に取ると、片手で中身を調べ出した。
「おお……ありましたね。では、こちらで預からせて貰いますよ」
そしてソルニトスは、持ち上げていた奈波の体を地面に叩き付け、手で頭を押さえて動けないようにする。
「ぐはっ!」
「……よくお聞きなさい。貴方たちは、我らの同胞を殺し過ぎたようだ。この恨みは万死に値するものと知るのです。我々が創造したこの世界で、今までの罪を償うといい」
「罪を償うだと……? よくもそんな言葉が出るものだな! 私たち人間を散々弄んでおいて、自分たちはどうなんだと言いたいよ!」
「我々と人の子を同列に語るとは……とうとう頭がおかしくなったのかな?」
ソルニトスは手に力を入れ、奈波の頭をギリギリと締め上げる。
「39回だ……現時点で、穂積海斗は39回死んだのです」
「な……に……?」
「今後も、この数字は増えるでしょうな。文字通り、万死に値するまでね」
ソルトニスはニヤリと笑い、奈波の頭を押さえていた手を放した。
――すると、奈波はベッドから落ちて目を覚ます。
「……えっ?」
目を擦って周囲を見ると、何故か渋谷駅ではなく自宅の部屋に戻っていた。
「嘘……さっきまで刺客と話していたのに……?」
奈波は痛む体を摩りながら立ち上がり、自分がベッドから落ちて目を覚ましたことを確認する。
(今までの出来事は夢? そんなはずない! 確かに私はメモヴェルスの欠片を探しに、渋谷駅へ行ったんだ!)
現実と夢の境界があまりに曖昧なため、奈波は不安から蹲って考え込んでしまう。
(弱気になってはダメだ……顔でも洗って少し冷静にならなくちゃ)
……奈波は部屋から出て洗面所へ向かうと、冬の冷たい水で顔を洗う。
その後にタオルで水を拭き取り、鏡に映る自分の顔をしばらくジッと見つめた。
(もう一度、メモヴェルスの欠片を探しに行こう。ソルトニスと名乗った刺客は、別の場所へ転送すると言っていたが、何処に落ちているか分かる能力が私にはあるから、絶対に見つけてやる!)




