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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第七章 八重野奈波 17歳
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違う光景と違う場所

奈波は頭を抱えながらベッドに座った。

「ああ~、この娘は穂積海斗への想いが強過ぎて避けてたのに。下手をすると、一緒に幸福な人生を選びそうで怖いんだよなぁ」

どうやら次元の狭間を(ただよ)っていた七奈美が、八重野奈波へ憑依(ひょうい)したらしい。

「ここでウダウダ考えても仕方ないか……メモヴェルスの欠片を探しに行かないとね」

奈波は嫌な考えを振り払うように立ち上がり、すぐに外出用の服に着替えて部屋から出た。

階段を下りると、居間では弟の颯太がまだゲームで遊んでいる。

「ちょっと外出する、留守番を頼むぞ!」

「は、はい! 分かりました」

颯太は驚きながら振り返り、家を出る奈波に返事をした。

「なんか姉ちゃん怒ってた? 急に口調がキツクなったような気が……それにカレーはどうしたんだよ」


――そして奈波は家を出ると、メモヴェルスの欠片が落ちていると思われる渋谷を目指した。

(問題なのは本人に会った時だな。この娘の感情をコント―ロールするには、それなりの訓練が必要になるだろう。イーテルヴィータを確定するのは来月辺りにするか)

そんなことを考えながら、奈波は渋谷行きの切符を買って山手線の電車に乗る。

座席へ座った時に周囲を見ると、今までの世界とは違い、至って普通の日常光景がその場にあった。

(おかしい……周りの人間は誰かに支配されている様子もない。あのお婆さんなんか居眠りしているぞ。こんな平和な光景は本当に久しぶりだな)

奈波はしばらく窓から外を景色を眺めた。

そこには武装した兵隊もおらず、市民を監視するような警察も存在しない。

あるのは忙しそうに歩くビジネスマンの姿や、夕飯の買い物に(いそ)しむ主婦、下校する学生たちが一緒に騒いでいる光景だった。

(幻異界の核に近付いた世界だとは思えない……もしかして私が間違えたのか?)

奈波は若干の不安を覚えたが、渋谷駅に到着するアナウンスが流れると、頭を軽く振って「大丈夫だ、私は間違っていない」と心の中で(つぶや)いた。

そして電車のドアが開き、奈波は立ち上がって駅のプラットホームへ降りる。


「奈波~、こっちこっち!」


突然、遠くから千里の声が聞こえたため、奈波は声がした方向へ視線を動かす。

見ると、千里が少し離れた場所で手招きしていた。

「どうしたの? ボーッとしちゃってさ。ホームの端っこをフラフラしてると、線路に落っこちちゃうかもよ」

千里がこちらへ駆け寄り、心配そうに奈波を見る。

「ち、千里……? どうして渋谷に来たの?」

「はあ? 何言ってるのあんた。どう見ても渋谷じゃないでしょ」

奈波は千里の言葉に驚き、慌ててホームの駅名標を見た。


――そこには『熱海駅』と書かれている。


「あ、熱海駅!?」

「そうだよ、ワケ分かんないこと言わない。久しぶりに三人で旅行に来たんだからさ~、もちっと楽しそうな顔しなよ」

「私が旅行に……嘘でしょ?」

「ちょっと~、しっかりして! さっきまで電車で寝てたから、寝惚(ねぼ)けてるんじゃないの?」

「お待たせ~、アイスを買って来たよ」

後ろから愛華がアイスを持って現れ、二人にそれぞれ配った。

「おっ、サンキュ。ほらほら、奈波もアイスを食べてシャキッとするんだ!」

「どうかした?」

「聞いてよ愛華。奈波がさ、熱海へ来るまでの記憶が飛んじゃったみたいでウケるのよ」

「寝惚けだよ寝惚け。奈波も抜けてるとこあるからね~」

そう言うと、千里と愛華は美味しそうにアイスを頬張った。


――違う!


奈波はしばらく(うつむ)いていたが、意を決して二人に「ちょっと帰る」と伝えた。

「えっ……帰るってどういう意味?」

「ごめん! 私、東京に帰らないといけないんだ!」

奈波はそう言うと、二人を置いて東京方面へ向かう電車に飛び乗った。

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