ななみとななみ
「えっ、大学は何処を受験するかって?」
八重野奈波は友人の田畑千里に質問され、額に手を当てながらしばらく考え込む。
「奈波は1年生の時から成績良かったもんね。やっぱり東大にチャレンジするとか?」
「う~ん、それも面白そうだけど、ちょっと気になってる大学はあるんだ」
「何処よ?」
「ああ~、ダメダメ。この子は前から決めてる大学があるの、私は知ってるから」
同じく友人の神谷愛華が、横から会話に口を挟む。
「だ・か・ら、何処なのよ?」
「筑波大学だよ。B組の穂積が受験するから」
愛華の言葉で、奈波は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「ほづみぃぃぃぃぃ~!? あんた、前にも穂積のことが気になるとか言ってたよね」
「いや、まあその……気になってるのは確かだけど」
「20人の告白を断った伝説のあんたが、あんな冴えない穂積に一途とか……世の中どうなってるワケよ? 断った中には須崎先輩もいたんだからね!」
「えっ、本当なの奈波!? あのイケメンで有名な須崎先輩をフルとか、どんだけ罪深いんだよ」
矢継ぎ早に問い詰められ、奈波はしどろもどろになってしまう。
「あ、あのさ……勝手に二人で盛り上がらないでくれる? それに、告白を断ったってのも大袈裟だと思うけどな」
「うわあああ、モテる女の嫌味は心に響くね~。愛華、涙を拭くからハンカチを出して!」
愛華はサッとハンカチを出すと、千里は涙を拭くような素振りを見せる。
そのやり取りを見ていた奈波は、思わずフフフと笑い出してしまう。
「でもさぁ、奈波って本当に穂積のことが好きなら、さっさと告白しちゃいなよ」
「えっ……いきなりそんなこと言われても……」
「だって小学生から言ってるじゃん。あいつも高校生だし、新しい彼女とかできちゃうよ」
「嘘でしょ!? そんなに長いこと引っ張ってるの? あんたバカじゃん」
「……言い方がキツイな」
「大丈夫だって、奈波から告白しちゃえば一発OK貰えるから。私たちが保証する」
「高校生活は短いよ~。受験シーズンの前に青春を満喫しときな」
そう言うと、千里は奈波の背中をパンパンと叩いて、教室にある自分の席へ戻って行った。
――高校からの帰宅後、奈波は靴を脱いで玄関に上がると、居間からテレビの音が聞こえて来た。
「ただいま~。颯太、いるの?」
だが返事はなく、居間のドアを開けて中を見ると、弟の八重野颯太がテレビゲームで遊んでいる。
「おいっ、返事くらいしろ!」
「ああ、ゴメンよ姉ちゃん。テレビの音で聞こえなかった」
「まったく……マイペースなのは誰に似たんだろ?」
「あっ、そういうこと言うんだ。お皿とか洗って、ご飯も炊いたのに」
「おお~、家事とか手伝ってくれたんだね。たまには気が利くじゃないか。じゃあ、今日の夕飯はカレーにしてあげる」
颯太は「はいはい」と返事をすると、再びテレビに向かってゲームに集中した。
奈波は着替えるため階段を上って自室に入り、動きやすいスウェットの上下を衣装ケースから取り出す。
(今日は少し疲れたな……千里と愛華があんな話をするからだよ)
そんなことを考えながらスウェットに着替え、奈波はベッドで横になり、しばらくボーッと天井を見つめた。
(新しい彼女か……それは困るかもなぁ。穂積君だって年頃だし、いつまでもウジウジしてたら誰かに取られちゃうかも)
……ぶつぶつと心の中で呟いていると、奈波は天井の照明に少しだけ違和感を覚える。
(あれ? あんなところに豆電球なんてあったっけ?)
照明の横に奇妙な一点の光を見つけたため、立ち上がってその光に触れようとすると、急に動き出して奈波の額の中へ飛び込んで来た。
突然の出来事に、奈波は気を失ってベッドへ倒れてしまう。
「……うっ!」
――倒れて5分後ほどが経過し、奈波は目を覚まして起き上がった。
少し虚ろな状態で奈波は鏡の前に立つと、自分の顔を確かめるように指先で触れて見せる。
「この顔は……覚えているぞ!」
奈波は学生鞄の中から生徒手帳を取り出し、名前が書いてあるページを見て確認した。
「やはり八重野奈波か……今度の世界は厄介なことになりそうだ」




