Public Speaking
――その時、データ管理室にあったモニターの一つが点灯し、高田の顔が映し出された。
「あ~二人共、喧嘩中のところを悪いが、私の話を聞いてくれないか?」
突然の登場に、マラーニャは目を丸くして驚く。
「水差すんじゃねぇよ高田! これからが本番だってのに」
「……すまないねぇ、貴女にどうしても伝えたいことがあるんだ。幻異界での審議により、貴女は刺客としての役割を剥奪する決定に至った」
「はあ? そいつはどういう意味なんだよ!」
「そのままの意味だ。貴女は現在、この世界で悪しき者の刺客として活動してはならない。早急に自害するか、原生種の餌となるか選ぶといい」
「う……うっせぇうっせぇ! そんな条件が飲めるワケないだろうが! テメェがアタイをどうこうする権利が何処にあんだよ、それこそ重大な戒律違反だろ」
「戒律違反か……ずいぶんと分かりやすい言葉を選ぶんだな。まあ上出来だと褒めてやる」
高田は眼鏡を外してハンカチで汚れを落とすと、再び自分の顔に掛けた。
「単刀直入に言おう、私はおまえが嫌いだ。こうして話をするだけでも反吐が出る」
……その言葉を聞き、マラーニャの顔が怒りで紅潮する。
「ふざけんじゃねぇよ! テメェの都合でアタイを殺す気なのか?」
「そうだ、何が悪い? 悔しかったら幻異界の重鎮に直談判するんだな。もっとも、おまえのような頭の悪い輩に、説得できる術があるとは到底思えないがね」
「クッ……ソ野郎が……っ!」
「潔く消滅したまえ。せめてもの情けだ、私からのプレゼントを受け取って欲しい」
高田はパチンと指を鳴らすと、管理室の硬質な壁を突き破って巨大な怪物が現れた。
その怪物は見た目が狼のような姿をしており、神話に登場する想像上の獣に似ている。
奇妙なのは、体毛の隙間から人の顔が覗いているため、それが人間の肉塊で形作られたものだとコールダスクは悟る。
「どうだ、素晴らしいだろう? これは北欧神話に存在する『フェンリル』という怪物を、人間の肉塊で創造したものだ。おまえの安っぽい操り人形とは格が違うぞ、格がな」
フェンリルと呼ばれる狼の獣は、凄まじい咆哮を放つと俊敏な動きでマラーニャに襲い掛かり、巨大な口で頭を丸齧りして、そのまま高々と天井に向かって彼女を掲げた。
どうやら食べられた時に頭を潰されたのか、叫び声すら聞こえて来る様子もない。
「丸飲みしろ、フェンリル。マラーニャに止めを刺せ」
高田に命令されると、狼の獣はゴクリとマラーニャを丸飲みし、満足そうにゲップを吐いた。
「……さて、コールダスク君。どうやら、そこでのミッションは達成されたようだな」
話し相手が自分へと変わり、コールダスクは高田が映し出されたモニターの前に立った。
「ああ、あんたのお陰で助かったよ」
「それは何より。これで我々もこの世界を、容易く統率できるようになった。もし良ければ、窓から外の景色を見て欲しい」
コールダスクはビルの窓に視線を向けると、何故か隣にコルト・テック本社ビルの高さを超える、雲を突くようなタワーが聳え立っていた。
そのタワーには巨大なモニターが設置されており、そのモニターを通して政治家の大家慎太郎が演説を行っていた。
「国民の皆様! 本日も日本のために汗を流していただき、誠にありがとうございます。我々も国民が快適に毎日を過ごせるよう、政務に努め、国の発展に貢献し、経済を永続的に安定させるため、日々精進してまいります。そのためには、他の国の追随を許さない、圧倒的な資金力が必要です! 我々は愛国法の名のもとに、30年前より『国家専任投資財法』を施行し、国民の皆様の給与から9割の資金をいただいております。そのお金は1円たりとも無駄にせず、皆様が快適に【生きられる】ための環境づくりに注力しています。何も考えなくとも良いのです! 皆様は生きることだけに集中しましょう。我々がそれを全力でサポートしてまいります」
コールダスクは大家の演説を聞き、まるで新興宗教の教祖が話すような内容に、思わず首を傾げた。




