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マラーニャは、蜘蛛が吐き出すような白い糸を伝って頭上から下りて来た。
「……おまえはスパイダーマンか」
「うっせぇ! いきなり著作権に引っ掛かりそうなこと言うんじゃねぇよ。こいつはアタイの特技の一つなんだ」
「55階の床に穴を開けたのはおまえか?」
「テメェらがあんまり遅いんで、爆弾でふっ飛ばしてやったぜ。お陰で手間が省けただろう?」
「まあな。おまえが堪え性のない性格で助かったよ」
コールダスクは日本刀の切っ先をマラーニャに向け、さらに質問を重ねる。
「……それから聞きたいことがある。あの子供たちに何をした?」
「ああん? どの子供だよ?」
「惚けるんじゃねぇよ、俺たちを襲った子供たちだ!」
「いや~ん、怒らないでよコールちゃん。顔真っ赤っ赤で茹蛸みたいになってるよ~」
「質問に答えろっ!」
「黙れよカスが! あれはアタイの精鋭部隊なんだよ。原生種を寄生させた子供たちの体をバラバラにして、パズルみたいに組み合わせたんだ。見た目も可愛くて萌え萌えしただろ?」
「貴様……っ!」
「な~に正義感ぶってんだ、このガキ! 忘れたのかよ? アタイら悪しき者は、ネガティブな感情を喰らう存在なんだぜ。子供の感情は純粋だから大好物なんだ。きったねぇ大人の感情ばかり喰らってると、反吐が出るからな」
「痛みや苦しさも純粋だから大好物だと?」
「そういうこと~」
その言葉を聞き、コールダスクは怒りで蟀谷に青筋が立つ。
「やはりおまえは倒すべき存在だ。もう容赦はしない」
「キャハハハ、いいねいいね! そう来なくちゃ張り合いがねぇよな」
――バシュ!
マラーニャが高笑いしたその時、コールダスクは日本刀を横に素早く振り払い衝撃波を放つ。
不意を突かれたマラーニャは慌てて横跳びし、辛うじて衝撃波を躱したが、その威力で吹き飛ばされて壁に激突した。
見ると、壁に埋め込まれた人間が何人か潰れてしまい、肉塊と化してしまう。
「て……テメェ、卑怯だぞ! 喋っている間に、エネルギーを溜めやがったな」
「卑怯もクソもあるか。これは子供たちの痛みだ、思い知れ」
「ケッ! そう来るならアタイだってやり返しちゃうから!」
マラーニャの指先から白い糸が吐き出され、それは鞭のようにしなってコールダスクに襲い掛かった。
コールダスクは、何本かの糸を日本刀で切り落としたが、数が多いため避け切れそうにない。
「危ねぇ! 俺が切り落としてやる」
すると門脇が横から加勢し、子供が持っていたファルシオンを使って、残りの白い糸を切断した。
「……はあ? おいおい、1対2とは聞いてねぇぞ。テメェらズルばっかで冷めるわ」
「こっちはいい勝負なんか望んでない。おまえみたいな子供を苦しめるゲスい野郎に、正々堂々とする必要なんてないからな」
「だ・か・ら、アタイは悪しき者の刺客だっての! 子供を標的にして何が悪いのさ?」
「残念だったな。今の日本は少子化が進んでいるから、おまえもさぞ寂しかろう」
――その言葉を聞き、マラーニャは大声で笑い出す。
「ギャハハハハハハ! 馬鹿かテメェは! 因果関係が逆なんだよ」
「……なんだと?」
「アタイたちは、転生の連鎖を歪ませるのも仕事の一つなんだよ。キッショイ国づくりをしてれば、幽界にストックされたピュアな人の子の魂が転生を拒むのさ。その魂たちはどうなるか知ってるか? 停滞した魂はどんどん澱んで、より強欲な国家へと流れちまうんだ。そうして地球は、文明の潰し合いが起こりやすい環境になるってワケよ」
「おまえの言う、キッショイ国づくりとはなんだ?」
「政治家、インフルエンサーとか、やたら声のデカイ変人を育てりゃいい。そいつらの影響力は、ネットの力を借りて広まりやすい時代だからね~」
そしてマラーニャは話すのを止め、再び指先から何本かの白い糸を垂らした。
「……さて、お喋りは飽きちゃった。こっちはテメェらを殺したくてウズウズしてんだ、行くよっ!」




