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本社ビルの50階に上がるまで、原生種が襲い掛かって来る様子はなかったが、あまりにスムーズに事が運ぶので、却って不気味に感じられた。
50階に入るためのドアは、本社の内部システムで厳重にロックされていたが、こちらもコールダスクが近付くと勝手に開いたため、三人は拍子抜けした顔になる。
「あまりにイージーだよね。抵抗らしい抵抗もないぞ」
「あの高田って野郎、マラーニャの上を行くハッカーなのか?」
「多分、原生種たちが内部システムに寄生しているから、ドアロックも簡単に外せるのかもしれない」
「つまりは高田にもマラーニャにも、俺たちの居場所が筒抜けってことかよ」
門脇は近くにあった監視カメラを睨んだ。
「その点は諦めるしかないかもね。もう正面突破しているようなものだし」
「ちょっとコール……あれを見て」
七奈美が廊下の隅で蠢いている黒い物体を見つけたため、指を差してコールダスクに知らせた。
「なんだありゃ? 真っ黒いお団子みたいな形だな」
コールダスクは奇妙に思い、その黒い物体に恐る恐る歩み寄ると、急にドクン! と心臓の鼓動のような音が聞こえ、黒い物体がガタガタと震え出す。
すると突然、中から人間の手足や顔が無数に生え、こちらへ襲い掛かって来た。
「いいい痛いっ! 痛いっ!痛いよう!」
「離して! 離してっ! 離してぇぇぇ!」
「俺の体ぁ! 俺の体は何処にあるんだっ!」
表面に浮かび上がった顔たちが、一斉に不可解なことを喋り出す。
「くそっ! 原生種に寄生された人たちを肉の塊にしたな!」
コールダスクは日本刀に手を掛けるも、その黒い肉の塊を斬るか迷っている。
「コール、躊躇ってはダメ! 寄生された人たちは元通りにならない。ここで倒さないと、あなたがやられてしまう」
「分かったよ!」
コールダスクは、やむを得ないと日本刀を引き抜き、襲い掛かって来た肉の塊を縦に斬り払った。
真っ二つに割れた肉の塊は、ドサリと床に落ちた後、ビクビクと痙攣したまま動かなくなる。
「……まだ生きているな」
「燃やさないと死ぬことはできないみたいね。マラーニャを倒した後にやろうか」
「成仏させるために、ここの従業員をすべて燃やす必要があるな。残酷な話だよ」
コールダスクは日本刀を鞘に納め、上の階を目指して再び歩き出した。
門脇の言う通り、50階から上はエレベーターを使うしか行くことができないため、まず上階と繋がる専用のエレベーターを探した。
しばらく探索していると、会議室の奥の廊下にあった大型エレベーターを探り当て、門脇は手で扉を無理矢理こじ開ける。
「どうやら上の階には行けそうだぜ。七奈美ちゃん、2階分くらいは登れそうか?」
「それくらいならなんとか……」
「じゃあ52階まで上がろう。そこから上は着いた時に考えりゃいい」
門脇はエレベーターの天井にあったパネルを壊して外へ出ると、まずは自分がワイヤーロープを伝って52階まで登って見せた。
そして52階にあったエレベーターの扉をこじ開け、閉まらないように金属製の棒で固定する。
「おお~い、二人とも上って来い。この階は問題ないみたいだぜ」
門脇の呼び掛けで、コールダスクと七奈美の二人も52階を目指して、ワイヤーロープを登り始める。
――しかしその時、門脇が何かと戦っているような怒声が耳に届く。
「テメェ、邪魔すんじゃねぇ! ここから先は行かせねぇからな!」
銃声まで聞こえたため、コールダスクは大声で門脇の名前を呼んだ。
「門脇さん! どうしたんですか! 門脇さん!」
……だが、1分後には門脇の気配が消えたので、二人は慌てて52階まで登った。
お互いに息切れしながら、なんとか52階まで辿り着くと、すぐに日本刀を引き抜いて周囲を警戒する。
「くそっ! 何処ですか門脇さん?」
「返事がないみたいね……この階を徹底的に調べましょう!」
二人は近くの部屋を慎重に調べながら奥へと進むと、巨大ホールの扉を廊下の先に見つける。
「きっとあそこだ!」
「……こんな上層階にホールなんてあるんだな」
コールダスクはホールの扉を開けて中に入ると、中央のスクリーンを囲んで100席ほどの椅子が並べられていた。
内部は吹き抜け構造になっているため、恐らく上へ向かう階段は53階まで繋がっていると考えられる。
「あっ、いた!」
見ると、中央のスクリーンの前で門脇が血を流して倒れていた。
コールダスクはすぐに門脇を助け起こそうとしたが、駆け寄ろうとしたその時、鋭いクナイが彼の足元に突き刺さる。
「誰だっ!」
――顔を上げてクナイを投げた存在を確認すると、それはゴシック調の衣服を着た幼い子供だった。
その子供は顔色が死人のようで、何故か頬の部分が糸のようなもので何重にも縫われており、明らかに生きている人間ではないことが分かる。
また動きも滑らかではなく、カクカクとしたパントマイムのような動作なので、第一印象で感じるのは「操り人形」のそれだった。




