Intensive Training
「……で? 俺の店に避難したいと」
門脇はコールダスクの説明を聞くと、困惑した表情を浮かべた。
高田と別れた後、マラーニャの監視から逃れるにはスマホなどのデバイス機器から離れる必要があったため、門脇の店へ避難しようと七奈美の二人で訪れた。
「門脇さんて、パソコンとかスマホとか触ってるとこ見たことないし」
「ああそうだ、嫌いなんだよそういうのは。古い人間だと言われるかもしれねぇが、持ってると機械に縛られてるような気がして息苦しいんだよな」
「それを聞いて安心した。地下の倉庫で構わないので、しばらく寝泊まりしていいですか?」
「別に構わねぇが……それよりもお二人さん、コルト・テックの本社に乗り込んで勝算はあるのか?」
コールダスクと七奈美は顔を見合わせたまま、しばらく黙ってしまう。
「……その様子だとなさそうだな」
「善き者の刺客に啖呵を切った手前、正面突破でもしようかと思ったけど、あそこのセキュリティは国内でもトップクラスなんで、最上階まで行くのはけっこうムズイ感じなんスよね。それに、中は幻異界へ繋がってるはずだし、従業員のほとんどは原生種に寄生されているから、そいつらを掻き分けて進まなきゃならない」
「コルト・テックの本社……確か『第三東京タワー・ステージ』だったか? そいつの内部設計図を手に入れる必要があるかもな。それに1階から攻めるんじゃなく、ショートカットして30階くらいから最上階を目指せばいいんじゃねぇか?」
「どうやって?」
「近くのビルの屋上からワイヤーを張って侵入すりゃいいさ。俺が道具を用意してやるよ」
「門脇さんて……何者なんスか? 話を聞いてると、ただのバーのマスターじゃないでしょ」
「俺のことを話したら、10時間は付き合う必要があるぜ。それでも聞きたいなら話すがな」
「……いえ、けっこうです」
「それでいい。黙ってプロのアドバイスに従っとけ」
門脇はそう言うと、ガハハと大声で笑った。
「……私たちも色々と準備する必要があるわね。コールはヴォラレウスから教わった『原初の力』をちゃんとコントロールできそう?」
「いや、まだまだかな。高層ビルの上階だと、地脈の流れを上手く掴めないし、衝撃波を出した後も身体にダメージが残ってしまう。もう少し練習が必要かもしれない」
「私は過去を書き換えて傷を癒すことができるから、一緒に練習しましょう。訓練を積めば、人間の体でも原初の力に対応するかもしれない」
「おいおい、倉庫をぶっ壊すなよ。練習は外でやれ外で。まったく……おまえさんたちが来てから、こちとら災難続きだぜ」
「保証はできないけど、努力はします」
「保証してくれ! 努力だけじゃ困るんだよ!」
門脇が慌てる様子を見て、コールダスクと七奈美の二人はクスクスと笑った。
――そして次の日から特訓を始めた二人は、門脇に言われた通り表の広場で練習を行うことにした。
街の中に設置された街頭スピーカーから、絶えずマラーニャの挑発する声が聞こえたが、二人はガン無視して訓練を続ける。
「いつまで待たせんだゴラァ! 退屈で肌の皺が増えるだろうがぁぁぁ!」
「マラーニャ寂しいの~、コーちゃん無視しないで早く来てぇ~」
「死にたい……もしアタイが死んだら、ゾンビになってあんたを食ってやるんだから!」
……こんな調子である。
マラーニャの支離滅裂さに二人は慣れたのか、一週間後にはその声もニワトリが鳴いている程度にしか感じられなくなった。




