Unveil the Secret
高層ビルの非常階段を利用し、コールダスクはなんとか1階まで下りる。
50階を上がるのもキツイが、下りもかなりキツイため、外へ出る頃には息も絶え絶えな様子だった。
「ああ来た来た、待ってたんだよ」
ビルの裏口から出ると、路上で駐車していたパトカーにコールダスクは呼び止められる。
煙草を吸いながら運転席から出て来たのは、以前に取り調べを受けた警察の高田だった。
(くそっ! 見つかったか)
コールダスクは観念して両手を挙げる。
「違う違う、逮捕なんてしないから安心したまえ」
「は? どうしてだよ、俺が怪しいから呼び止めたんじゃないのか?」
「ビルの中で何が起こったのかは知っている。君が殺人に関与していないこともな」
「……じゃあ逃がしてくれるのか?」
「その前に、少し君と話がしたい。返答次第では逃がしてやってもいいぞ。君はマラーニャから連絡があったはずだが、彼女と何を話したのかね?」
「あの女は、コルト・テックの本社ビルを占拠したと言ってたぜ」
「ああ~、面倒なことをする。あれほど人間の世界に干渉するなとアドバイスしたのに、まったく聞く耳を持っていないようだな。これだから計画性のない刺客は嫌いなんだ」
その言葉を聞いて、コールダスクの眉がピクリと動く。
「……なるほど、あんたもかよ!」
――高田は吸っていた煙草の灰を落とすと、「そうだ、私が善き者の刺客だよ」と答えた。
「どうして正体を明かした?」
「もう隠しても意味がないだろう。君はすでにメモヴェルスに触れているし、悪しき者の刺客であるマラーニャも、こうして派手に動き出したからな。で? 君は本社ビルへ突撃するつもりか?」
「やるさ。あっちが先に挑発したからな」
「ほう、威勢の良いことだ。ただ骨が折れる戦いになるぞ。ビルの内部システムがすべて彼女に支配されているはずだからな。君は何故、彼女がこれだけハッキング能力に優れているか知らないのか? 彼女から携帯にコンタクトがあった時はさぞ驚いただろう。君の携帯は、海外の通信会社を何重にも通さないと繋がらない仕様になっているからな」
コールダスクは驚いた様子で高田の顔を見る。
「……何故それを知ってるんだ?」
「では、種明かしをしてやろう。その前に……彼女にも会話に入って貰おうか」
高田はキョロキョロと辺りを探すと、ビルの壁に設置された監視カメラを見つける。
「あの監視カメラが良さそうだな、恐らく彼女もハックしているだろう。さあ、一緒に仲良く映ろうじゃないか」
「はあ? 何言ってんのあんた」
だが、高田は強引にコールダスクの腕を引っ張り、監視カメラの前まで連れて行く。
そして二人で肩を組み、監視カメラに向かって喋り出した。
「聞こえているか悪しき者の刺客よ。彼に我らの秘密を打ち明けようと思うが、貴女は納得していただけるかな?」
――すると、10メートルほど離れたビルに設置された巨大モニターが反応し、マラーニャと思われる顔が映し出される。
「高田ぁ! テメェ、アタイの秘密をベラベラと喋るんじゃねぇよ。納得するワケないだろ、このボケが!」
モニターからマラーニャの怒声が飛んで来るも、高田は冷静に監視カメラを通して彼女に語り掛ける。
「相変わらず下品な言葉でしか語れないようだ。私は前に忠告したはずだ、あまり人間の世界に干渉するなとな。貴女が戒律違反を犯している以上、私は監視役として厳しく指導しなければならないのでね」
「うっせうっせ! アタイは面白けりゃそれでいいんだよ、邪魔しないでくれる?」
「彼に聞けば、貴女はコルト・テックの本社ビルを乗っ取ったそうじゃないか。その企業は警察にとっても親密な関係にあり、被害が大きくなっては困るからな。それにいい加減、原生種を使ってネット環境へ侵食するのは止めたまえ」
「なにっ!?」
コールダスクは高田の言葉に驚愕し、組んでいた肩を振り解く。
「……やはり知らなかったようだな。原生種の一部は、人間だけでなく【物質】にも寄生できる。現代のネット環境は罵声、誹謗中傷、二極対立など、穢れた感情の掃き溜めとなっている。これらの感情を吸収するのが原生種の役目だ。寄生するには最適の場所だろう?」
「いや~ん、高ちゃん言っちゃうんだもん。恥ずかしてくてモニター消しちゃうから!」
マラーニャの甲高い声が聞こえた後、巨大モニターに映し出された彼女の顔が消えた。
「……やれやれ、監視役も楽ではないな。それでは失礼するよ。あまりウロウロすると他の警察に捕まるから、早急にこの場を去りたまえ」
そう言うと、高田は乗っていたパトカーの運転席に戻った。
コールダスクは窓越しに高田へ語り掛ける。
「ずいぶんと協力的だな、何が目的だ?」
「さっきも言ったが、マラーニャは人間の世界に過干渉している。それを是正するのが、刺客の片割れである私の役目だ。君がお灸を据えてくれると助かるのだが……後は好きにしてくれたまえ」
「おまえだって俺の標的なんだぜ」
「……それもそうだな、では楽しみにしているよ」
高田はパトカーを走らせようとしたが、突然、急ブレーキを踏んで停車させる。
「ああそうだ。君は大家という政治家を調べているようだが、彼は私が育てたから放っておいてくれ。もし手を出したら、その時は容赦しないぞ」
窓から手を出して軽く振ると、高田はパトカーを走らせてその場を後にした。




