Nephila Clavata
コールダスクは通話している相手が分かり、ガックリと項垂れた感じになる。
「マラーニャか、相変わらず元気そうだな」
「元気だよ~。コールダスクはそんなとこで何やってんの?」
「どうせ何処かのカメラから俺を見てるんだろ。殺人のあった現場を調べてるんだ」
「あらら、猿渡はアタイが有名にしてあげたのに死んじゃったんだぁ。原生種ちゃんには、キツイお仕置きが必要みたいね」
「え……? おまえ、まさか……」
スマホのスピーカーを通して、マラーニャの高笑いが部屋中に響き渡る。
「そうだよ~、アタイが悪しき者の刺客なのさっ!」
――その言葉を聞いて、コールダスクの眉間に深い皺が寄った。
「キャハハハ! 驚いた? 今まで黙っててゴメンねぇ。心は乙女だから、恥ずかしくてコーちゃんに言えなかったの~」
「直接会ったこともないのに、馴れ馴れしい呼び方しないでくれ。それに、おまえが乙女ならゴキブリだって乙女になれるわ」
「なんだとオラァ!簀巻きにして東京湾に沈めっぞ!」
急に怒号が飛んだため、コールダスクは慌ててスマホを耳から離す。
「テメェみたいな半端もんがハッカー名乗ってんじゃねぇよ! アタイがコルト・テックにちょっかい出した時もさ、テメェは手も足も出なかったじゃねぇか!」
「そんなこともあったな……おまえのスキルは素直に認めてやる。そのコルト・テックに雇われたらしいじゃないか」
「いや~ん、そうなの。コーちゃんはアタイの先輩になるから、これからよろしくねっ! コーちゃんだと馴れ馴れしいって言うしぃ、センパイって呼んだ方がいいかな?」
コロコロと態度が変わるため、コールダスクは相手のペースに飲まれないよう大きく深呼吸した。
「好きにしろ。それで……おまえが悪しき者の刺客なら、俺の命を狙ってるってことだよな」
「もっちろ~ん。だからぁ、コルト・テック社のビルを占拠しちゃいました!」
「なにっ!?」
……どうやら怖れていたことが起こったらしい。
マラーニャに占拠されたとなると、コルト・テックの内部システムはすでに崩壊したと思われる。
「コルト・テックは関係ないだろ、何が望みなんだ?」
「キャハハハ! デスマッチだよデスマッチぃ! テメェはアタイのいる最上階まで登って来るんだよ。無事に辿り着けたら、その時はぶっ殺して結婚してあげる!」
コルト・テックの最上階は、役員でも安易に入ることができない神聖な領域だと言われている。
今まで培った技術のすべてが記録されているため、セキュリティを突破するのも容易ではなく、厳重にロックされた分厚い扉を開ける必要があった。
……だが、彼女はそこにいるらしい。
「アタイの話は理解できたぁ? じゃあ待ってるから、差し入れにケーキでも用意しといて! それから忠告しとくけど、警察の人たちがそっちに向かってるぞ~。早く脱出しないと捕まっちゃうから、気を付けてねん。あ、エレベーターで帰ろうなんてアホなこと考えちゃダメだよ!」
マラーニャはそう言葉を残して通話を切った。
「くそっ! 今の俺を占ったら、女難の相が出てる自信あるわ!」
コールダスクは軽く愚痴を言うと、ビルの非常階段に向かって走り出した。




