Security Risk
一方で、コールダスクと七奈美の二人は、谷江がいると思われるカフェへと足を運んだ。
店内を調べると、奥の席に谷江が座っているのが見える。
予想した通りノートPCを開いて作業しており、無言で何かを入力していた。
「ああ、やっぱりだ七奈美さん」
「予想した通りだな。で? これからどうするんだ」
「コーヒーでも注文した後に、近くの席へ座りましょうか」
コールダスクはカウンターまで行くと、店員にコーヒーを二人分オーダーした。
七奈美は言われた通り、谷江の近くにある席へ座る。
その後、コールダスクは注文したコーヒーを店員から受け取ると、トレイに乗せて七奈美のいる場所へ向かった。
「はい、どうぞ。コーヒーの他に何か欲しいものがありますか?」
コールダスクは、トレイに乗せたコーヒーを七奈美の前に差し出した。
「いらないよ。それに、私はあまりコーヒーが好きじゃないんだ」
「なんだ! 先に言ってくださいよ」
「どうやら、宿主の斎条七奈美がコーヒーを受け付けない体質らしい。私もさっき気が付いた」
「面倒な話ですね」
「他人の体に入れても、その人間のすべてを把握できるワケではないからな。私は実体を持たないただの想念なんだ。幽霊みたいなものさ」
そんな奇妙な会話が聞こえたのか、谷江が訝し気な表情でこちらを見る。
「……や、やだなぁもう! オカルト話で俺を怖がらせようとしても、その手には乗りませんよ」
コールダスクは話題を変えて誤魔化そうとした。
そして二人はしばらく寛いでいると、谷江が作業を止め、席を立ってトイレに向かう。
「物騒な奴だな、こんな高価なPCを置いてトイレへ行くのか」
「いや、ちゃんと盗難防止用のチェーンでロックしているみたいです。ほら、テーブルの脚とチェーンが繋がってるでしょ」
ノートPCとテーブルの脚がチェーンでロックされていることを、七奈美は目で確認する。
「……本当だ。これじゃあ盗めないな」
「盗む必要はないっス。ただちょっとだけ中身をイジらせてもらうけど」
コールダスクは谷江のノートPCを開くと、キーを入力して画面ロックを解除した。
「お、おまえ、どうやったんだ?」
「ああ、こいつが暗証を入力しているところを横から見てました。手元の動きでけっこう分かりますから、こんな目立つ場所で作業する奴が悪いんです。それに、暗証番号も『1234』とバカ丸出し」
「なるほどな」
コールダスクはノートPCに小型ストレージを差し込み、画面を操作してソフトをインストールする。
「終わりっと……裏で常駐するソフトをインストールしました」
「それはどんな効果があるんだ?」
「そいつは後のお楽しみってことで」
そう言ってノートPCを閉じ、コールダスクは何食わぬ顔で元の席へ戻った。
トイレから出た谷江は、すぐに自分のテーブルへ戻ると、ノートPCを抱えてカフェを後にした。
「恐らく会社に向かったんだと思います。さて、俺たちも隠れ家に戻りますか」
「あいつを追わないのか? ソフトをインストールしただけだと思うが」
「今のところ、それだけで十分ですよ」
コールダスクは不敵な笑みを浮かべながら、七奈美のコーヒーを飲み干した。




