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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓弥
第一章 穂積海斗 22歳
7/120

旧神宮南駅にて

――そして一ヶ月後。


「次は明治神宮前、原宿です。副都心線、JR山手線はお乗り換えです」


車内アナウンスが聞こえると、明治神宮前駅で降りようとする何人かが席を立った。

東京メトロ千代田線は平日でもほぼ満員で、夕方になるとさらに混雑する。

そんな中、少々目立つワインレッド色のコートを着てサングラスを掛けた男が、右耳に挿したイヤホンマイクに向かって何かを(しゃべ)っていた。


「……お師匠、廃駅の神宮南を探ります。メモヴェルスが反応しました」


そう言うと男は立ち上がり、車両に設置された非常ブレーキを突然作動させた。


「おい! ふざけんな!」

「正気か? 賠償金をいくら払うと思ってんだ!」

「おい、近寄らないで別の車両へ行こうぜ。ヤバい奴だよきっと」


当然ながら男に向かって怒号(どごう)が飛んで来る。

だが男は気にも留めず、車両のドアを無理矢理こじ開けてそのまま線路の脇に降りた。


廃駅となった『神宮南駅』は、代々木公園のちょうど真下にある。

1960年頃には明治神宮の参拝客が利用しそれなりの需要もあった駅だが、代々木公園の再整備と共に閉鎖となり、現在は代々木公園駅と明治神宮前駅の通過地点となっている。

廃駅ではあるが駅としての形は残っているため、鉄道マニアにとっては垂涎(すいぜん)のスポットで有名だ。


「さぁて、オロチの新作『兼佐陀・紫電』と『カスタムBSR』の実力を見せてもらおうか」


男は神宮南駅のホームと思われる場所へ足を踏み入れると、腰に差している赤色の(さや)に収められた日本刀を引き抜いた。


シュルシュルシュー。


奥から空気が漏れるような不気味な音が聞こえる。

男はハンディライトを音のした方向に向け、息を潜めながら日本刀を構える。


「バギャ! バギャギャギャギャッ!」


突然、頭上から獣が吠えるような咆哮(ほうこう)が聞こた。

男は冷静に体を前転させ、頭上より襲い掛かった化け物の攻撃を()ける。

見ると大きさは人間サイズの化け物で、(たこ)のように何本もの触手が生えており、体は全身が(から)で覆われていた。


「……巨大化した原生種(げんせいしゅ)の幼虫か」


原生種の攻撃を避けた時、掛けていた男のサングラスが落ちたため顔が割れてしまう。


「おやおやおや、見違えましたね穂積海斗殿。一ヶ月前とは比べものにならないほど、精悍(せいかん)な顔付きになりましたなぁ」


壁を()って現れたミゼラムがサングラスの男……海斗にそう言葉を掛けた。


「久しぶりだな2()0()()()()。まだ飽き足らず原生種の生殖虫(せいしょくちゅう)を育てているのか?」

「うるさいっ! 貴様だって20年離れだろうがぁ!」

「おまえと俺とは立場が違うんだよ。さっさと原生種を駆逐(くちく)しろ、ブチ殺すぞ」


海斗は一ヶ月前と比べ、言動も態度も何もかもが違っている。

この短い期間で何があったのか知る(よし)もないため、ミゼラムの額から嫌な汗が流れ落ちた。


「……どうやら俺の変わり様に驚いているみたいだな。おまえはメモヴェルスがどんな力を秘めているか知らないだろ? そりゃそうだ、20年も離れた場所に飛ばされた刺客なんて上から相手にもされない雑魚(ざこ)だからな。左遷(させん)になった管理職みたいなもんだ」

「いぃぃぃ、言わせておけば調子に乗りやがってぇぇぇ!」


ミゼラムは激昂(げっこう)し、鋭い爪で海斗に襲い掛かった。

だが海斗はヒラリと攻撃をかわし、勢い余ったミゼラムはそのまま壁に激突する。


「おい、陽介の仕打ちを忘れてないからな俺は。おまえだけは徹底的(てっていてき)にプライドをへし折った後に殺してやる」


その時、しばらく動きを止めていた原生種の幼虫が海斗へ飛び掛かると、覆い被さるように馬乗りになり、長い触手で海斗の首を絞め始めた。


「いいぞ子供たちっ! そのまま息の根を止めてしまえ!」


ミゼラムは海斗の苦しむ様子を見て大笑したが、幼虫の全身に雷のような電撃が走ると、そのまま溶けるようにグッタリと幼虫は倒れ落ちた。


「さすがは『兼佐陀・紫電』の名に恥じない威力だな。オロチも恐ろしい刀を作ったもんだ」


海斗は刺していた日本刀を幼虫から引き抜き、その切っ先をミゼラムへ向けた。


「さて、生殖虫がここにいるのは分かっている。案内してもらおうか」

「お断りいたします。人の子が生殖虫を相手に戦えるワケないでしょ!」

「そ~れができるんだな。港区の生殖虫を駆除したのは俺なんだぜ」


……ミゼラムの表情が一瞬で真っ青になった。

新宿区と同様に人間の(よど)みが発生しやすい港区は、原生種が最も力を(たくわ)えられる場所として厳重に守りを固めている。

つまりはここの生殖虫よりも(はる)かに攻撃力が高く、生まれた幼虫たちも数で圧倒するため、近付ける人間は一人もいないのだ。


「き、貴様が港区の生殖虫に手を掛けたのか? 一体、この一ヶ月で何を……?」

「知りたいだろうが知らないで死ぬだろうな、おまえは。いいから後ろで見とけよ、ここの生殖虫が駆除されるところをさ」


――ミゼラムは歯軋(はぎし)りしたが、どうしようもできない。

港区の生殖虫は例えるなら自衛隊の一個中隊に匹敵する。

それを一人で相手したとなると、かなりの実力者であることが理解できるからだ。


そして海斗は駅の奥へ進むと、暗闇の中で「シューシュー」と(うめ)く声が聞こえた。


(ここは暗くて視界が悪い……暗視スコープを持ってくりゃ良かったな)


海斗は音を頼りに生殖虫がいると思われる場所へ近付くと、グニャリと何か柔らかいものを踏んだ感触が足裏に伝わった。

……次の瞬間、コンクリートの地面が割れて太い触手が飛び出し、全身を包むように海斗へ巻き付いた。

不幸なことに、海斗は持っていた日本刀を手から離してしまう。


「くそっ!」


海斗は必死で藻掻(もが)いたが振り(ほど)ける様子もなく、触手の締め付けはますます強くなってゆく。

万策尽きたと思われたが、次の瞬間、凄まじい銃声が周囲に響き渡った。

そして風穴を開けられた触手から大量の血液が流れ出し、次第に力を失った触手は締め付けていた海斗を地面に落とす。


「さっすが携帯できるライフル弾と言われてるだけのことはある。こいつは使えそうだ」


海斗はリボルバー『カスタムBSR』をホルダーへ収めると、すぐに日本刀を手にして巨大な生殖虫と向かい合った。

港区で対峙(たいじ)した時と比べ、ここの生殖虫は若干小さいように思える。

ただ周囲が暗く視界が悪いため、何処から触手が飛んで来るか分からない恐ろしさがあった。


ヒュッ!


触手が海斗の頭に向かって素早い動きで襲い掛かる。

海斗は当たる直前で日本刀を振り払い、そのまま地面へと切り落とした。


(こいつの弱点は……確か脳と心臓が一体化してるから、神経の繋がる目玉を攻撃すれば有効だと聞いたな)


海斗は大きくジャンプしながら生殖虫の(ふところ)に入ろうとした。

(はた)から見ると自殺行為に思えるが、海斗は意に介していない様子だった。

そして次々と触手が飛んで来るも、海斗は日本刀を使って連続で叩き落とし、ついには生殖虫の目玉の近くまで辿り着く。


「たあぁぁぁっっっ!」


海斗は日本刀を逆手に持ち、生殖虫の真っ黒な瞳に向かって突き刺した。

次の瞬間、凄まじい電撃が生殖虫の全身に伝わり、焦げたような臭いがした後にすべての触手が動きを止めた。


「駆除完了だな」

「キィィィ! 私の愛する子供になんてことするんですか!」


海斗の後ろでミゼラムが悔しそうに地団太(じだんだ)を踏んでいる。


「うるせぇな、じゃあおまえが俺の相手をするか?」

「……かくなる上はモルテーム教団に新たな刺客を要請(ようせい)いたします。より強力な原生種と戦うことになりますよ、覚悟なさい!」

「呼べばいいさ。片っ端から相手をしてやる」


ミゼラムは「後悔しますよ」と捨て台詞(ぜりふ)を吐き、そのまま暗闇の中へと姿を消した。

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