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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
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クジラの原生種

――最初に襲って来たのは小型の原生種だった。

見た目はイソギンチャクのような姿をしており、壁に張り付いたまま触手を伸ばしてマリーに打突する。

一つの個体はそれほど大きくはなく攻撃力は弱いが、数が多いために四方八方から触手が伸びて来る。

そして街の中央にある噴水広場へ向かうには、建物に挟まれた狭い路地を通る必要があるため、その建物の壁に大量に張り付いているのがまた厄介なのだ。


「もうキリがない! こっちは害虫駆除をやってるんじゃないっての!」


マリーは触手を一つ一つ丁寧に切り落としたが、このままでは体力が持たないと考え、噴水広場まで走り抜けるプランに切り替える。

小型の原生種はその行動を見て、30ほどの個体が同時に触手を伸ばして攻撃を加えたが、それらを日本刀で上手く(さば)き、マリーはなんとか難所を切り抜けた。


……だが、本当に厄介なのは噴水広場にいる大型の原生種だ。

こちらはクジラのような見た目をしているが、頭に何故か人間の手足が生えており、尾ひれの部分は完全に退化している奇怪な個体である。

また巨躯(きょく)であるにも関わらず、異様に素早い動きをするため、マリーを見つけると即座に襲い掛かって来た。


「こんなデカイやつに、どう立ち向かえってのよ!」


幸いながら物理的な攻撃は原生種に効くので、ヴォラレウスから教えられた原初の力を使う必要はないが、見た目の大きさから衝撃波で仕留めたいのが本音である。

だが、使えば間違いなく体力が削られるため、場合によっては命を落とす危険性が考えられた。


――そしてクジラの原生種は、巨大な口を開けてマリーを喰らおうとする。

口の中は喉までびっしりとサメのような鋭い牙が生えており、捕まえたら中で噛み砕くつもりなのだろう。

マリーは原生種の攻撃を辛うじて避けると、まず最初に視覚を絶つため日本刀で目玉を突いた。


「キャアアアァァァ!」


原生種から男性と女性が入り混じったような叫び声が上がる。

その後、原生種は広場の中で暴れ回ると、生えていた腕を使ってマリーを平手で叩き飛ばした。

飛ばされたマリーは、疲労によって判断が鈍ったのか上手く受け身が取れず、近くにあった建物の壁に思い切り激突してしまう。


「ぐはっ!」


……マリーは全身の強打によって、口から大量の血を吐き出す。

地面に倒れたまま動けなくなったマリーに、冷静さを取り戻した原生種が足音を立てて近付いて来た。


(た、立ち上がらないと……!)


マリーは日本刀を杖の代わりにして立ち上がったが、視界が(かす)んで前が見えなくなっており、何処から原生種が近付いているのか分からない。

そして次の瞬間、原生種の平手がマリーの脇腹を殴打し、再び数十メートルほど飛ばされて頭から地面に落下した。

この衝撃で、マリーは完全に意識を失ってしまう。


ドスン、ドスン、ドスン。


原生種の不気味な足音が噴水広場に木霊(こだま)する。

恐らくまた巨大な口を開けて、マリーを喰らおうとしているのだろう。

だが近付いて来る足音にマリーが気付くことはなく、微睡(まどろみ)の中に囚われたままである。


――すると不思議なことが起こった。


死人のように歩いていた男の一人が、何故か原生種の前に立って行く手を(さえぎ)ったのだ。

原生種は威嚇(いかく)の意味で吠えたが、その男は微動だにせず、まるでマリーを守るかのようにその場を動かないでいた。


「が、海斗ぉぉぉ、べをぉぉぉ、目を覚ませぇぇぇ」


死人のような男は(しき)りにマリーに話し掛けた。

その声が聞こえたのか、マリーの指が少しだけ動く。

だが男は、原生種の巨大な口の中へと放り込まれ、ボリボリと音がした後にゴクリと飲まれてしまった。

原生種は邪魔者がいなくなったことを確認すると、再びマリーに視線を向け、手を伸ばしてその体を(つか)もうとする。


コツン!


マリーを掴もうとした原生種に、何故か小石が飛んで来て頭に当たったので、投げた者を確認しようと原生種は辺りを見回した。

そして広場の隅にいた、死人のように歩いている女性を見つける。

原生種は首を傾げるも、その女性に近付いて小石を投げた当人か確かめた。


「が、がい、海斗ぉぉぉ。げを……目を……目を覚ませぇぇぇ!」


その女性も海斗の名前を大声で呼び続けている。

原生種は女性の体を掴んで口の中へ入れ、先ほどの男と同様に、バリボリと砕いて飲み込んでしまった。

満足げな表情を浮かべて汚いゲップをした原生種は、もう一度マリーに視線を向けたが、何故か彼女はその場から消えていた。

原生種は慌てて辺りを探すも、マリーの姿を見つけることができない。


――その時、原生種の頭の上に何かが飛び乗る感触があった。

そして日本刀が頭蓋骨(ずがいこつ)まで到達するかのように突き刺され、その痛みで原生種は体をねじりながら暴れ出した。

頭の上にいたのは……目を覚ましたマリーである。


「だあああああぁぁぁぁぁ!!!」


渾身(こんしん)の力を込めたマリーは、原生種の頭頂部を真っ二つに斬り裂いた。

斬られた原生種は急に動きを止め、「ぐあっ」と一声漏らすと、()け反った巨大な体が地面へと崩れ落ちる。

その後、マリーは息絶えた原生種を確認すると、頭の上からゆっくりと下りて来た。

「はあ……はあ……なんとかやっつけたね」

すると遠くから七奈美の声が聞こえた。

【ハラハラさせるんじゃない。まったくシンクロしない体に入るのは骨が折れたぞ。海斗と名前を呼ぶだけで精一杯だった】

「やっぱり七奈美さんか。見てないで少しは助けてよ」

【それは無理だ。私の想念は依然(いぜん)として次元の狭間にある。そう都合良くそちらの世界に行くことはできないんだ。それに一度でも体に入ると、その者が死なない限り他の者に移れない。今回で二度も原生種に食われる羽目になったんだぞ】

「今度、何か(おご)ります」

【おまえが使命を果たしたらそうしてもらおう】


使命を果たすか……無茶なこと言うなぁと思いながら、マリーは七奈美との会話を終える。

そんな無限に愚痴を言いたい心境の中、マリーは激痛に耐えながらイシュクワの屋敷を再び目指した。

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