師との対決
「街が……街が燃えている!」
イシュクワは取り乱し、すぐに部屋から出て行こうとする。
「何処へ行くの? イシュクワ!」
「お父様の屋敷に帰ります。恐らく戦争が始まってしまったと思うから」
「今行くのは自殺行為だよ! それに、さっきも言ったけどあなたのお父さんは話が通じる人じゃない!」
「でも……」
マリーはイシュクワの両肩にそっと手を置く。
「耐えるんだよ。あなたは他国に逃げた方がいいと思う。私が船を用意するから、明日、一緒に港へ行こう」
イシュクワは悲しそうな表情を浮かべて俯いてしまう。
「それに今日はもう遅いしね。夜の暗闇の中を歩き回っても、無事に屋敷に辿り着けるか分からないから。もし、どうしてもお父さんが気になるなら、私が偵察に行ってあげる」
「本当に……?」
「うん、約束する」
マリーはイシュクワを安心させるため背中を摩って見せた。
――次の日。
マリーが朝日で目覚めると、隣で寝ているイシュクワの様子を確認する。
静かにシーツを捲ると、彼女の姿は消えていた。
「しまった!」
マリーは慌てて寝室を飛び出してイシュクワを探す。
だがバタバタと廃城の中を走り回って彼女を探すも、一向に見つかる気配はなかった。
「……うるさいぞ、何をしている?」
あまりにも騒がしいため、ヴォラレウスが不機嫌な顔をしてマリーに話し掛けた。
「イ、イ、イシュクワを見なかった?」
「知らんな。一緒に寝ていたのではないのか?」
「やっぱり街へ戻ったんだ! 追い掛けなきゃ!」
マリーは寝室へ向かって日本刀を手にし、急いで着替えて戦う準備を整えると、廃城を出て行こうとした。
「おい何処へ行く? 稽古はまだ終わっておらぬぞ」
「帰って来たら続きをやるから!」
「そういう問題ではない。まさかジェノコアとやり合うつもりではないだろうな? 今のおまえでは絶対に勝てぬぞ」
「分かってるけど、友達が殺されちゃうんだよ!」
マリーはヴォラレウスの忠告を聞かず、廃城の表門を開けてダイロスの街へと向かった。
――そして一時間後、マリーは街の中へと足を踏み入れた。
辺りを見ると、いくつかの建物が壊されており、すでに住民は避難している様子である。
(おかしい……やけに静かだ。もしかしたら原生種が潜んでいるのかもしれない)
マリーは日本刀を構えて慎重に歩いていると、前方から軍服を着た男が一人、フラフラとした足取りで歩いているのが見えた。
「ぐごぉぉぉげぇぇぇ」
軍服の男は呻き声を上げながら、こちらへ近付いて来る。
マリーは脇道に身を隠し、その男がやり過ごすのを待った。
(やっぱり幻異界と繋がってるエリアだ。ジェノコアの仕業だな。メモヴェルスも反応してるし、イシュクワの屋敷まで行くのは相当骨が折れるかも)
マリーは見つからぬよう屈みながら街の奥へと進み、なんとか国立公園に辿り着いた。
平民の憩いの場として自然豊かな公園で有名だったが、今は見る影もなく、花や木々が燃やされているため、荒廃とした景色だけが残されていた。
また軍服の男と同じく、公園ではフラフラと死人のように歩いている者が何人か散見され、恐らく彼らは原生種に寄生されたと考えられる。
(惨いことするな……イシュクワの屋鋪に近くなるほど、あんなゾンビみたいな奴が増えている感じだ)
……すると突然、頭上から舞い降りて来る者がいた。
その男は勢い良く地面へ着地すると、落下した衝撃が波動となって周囲に伝わり、死人のように歩いている者たちを次々と吹き飛ばした。
「あれは……ヴォラレウス!」
マリーは日本刀を鞘に収めて、空から現れたヴォラレウスに歩み寄る。
「どうしたの? もしかして助けに来てくれたのか?」
だがヴォラレウスはマリーに背を向け、黙ったままである。
「なんで黙ってるのさ?」
「……邪魔者は消し去った。これで正々堂々と戦えるな」
そう言うと、ヴォラレウスは腰に携えた剣を引き抜き、マリーにその切っ先を向けた。
「どうやらおまえは忘れているようだ……我は悪しき者の刺客なり。よっておまえのイーテルヴィータをここで閉ざす!」




