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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
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師との対決

「街が……街が燃えている!」

イシュクワは取り乱し、すぐに部屋から出て行こうとする。

「何処へ行くの? イシュクワ!」

「お父様の屋敷に帰ります。恐らく戦争が始まってしまったと思うから」

「今行くのは自殺行為だよ! それに、さっきも言ったけどあなたのお父さんは話が通じる人じゃない!」

「でも……」

マリーはイシュクワの両肩にそっと手を置く。

「耐えるんだよ。あなたは他国に逃げた方がいいと思う。私が船を用意するから、明日、一緒に港へ行こう」

イシュクワは悲しそうな表情を浮かべて(うつむ)いてしまう。

「それに今日はもう遅いしね。夜の暗闇の中を歩き回っても、無事に屋敷に辿り着けるか分からないから。もし、どうしてもお父さんが気になるなら、私が偵察(ていさつ)に行ってあげる」

「本当に……?」

「うん、約束する」

マリーはイシュクワを安心させるため背中を(さす)って見せた。


――次の日。

マリーが朝日で目覚めると、隣で寝ているイシュクワの様子を確認する。

静かにシーツを(めく)ると、彼女の姿は消えていた。

「しまった!」

マリーは慌てて寝室を飛び出してイシュクワを探す。

だがバタバタと廃城の中を走り回って彼女を探すも、一向に見つかる気配はなかった。

「……うるさいぞ、何をしている?」

あまりにも騒がしいため、ヴォラレウスが不機嫌な顔をしてマリーに話し掛けた。

「イ、イ、イシュクワを見なかった?」

「知らんな。一緒に寝ていたのではないのか?」

「やっぱり街へ戻ったんだ! 追い掛けなきゃ!」

マリーは寝室へ向かって日本刀を手にし、急いで着替えて戦う準備を整えると、廃城を出て行こうとした。

「おい何処へ行く? 稽古はまだ終わっておらぬぞ」

「帰って来たら続きをやるから!」

「そういう問題ではない。まさかジェノコアとやり合うつもりではないだろうな? 今のおまえでは絶対に勝てぬぞ」

「分かってるけど、友達が殺されちゃうんだよ!」

マリーはヴォラレウスの忠告を聞かず、廃城の表門を開けてダイロスの街へと向かった。


――そして一時間後、マリーは街の中へと足を踏み入れた。

辺りを見ると、いくつかの建物が壊されており、すでに住民は避難している様子である。


(おかしい……やけに静かだ。もしかしたら原生種が(ひそ)んでいるのかもしれない)


マリーは日本刀を構えて慎重に歩いていると、前方から軍服を着た男が一人、フラフラとした足取りで歩いているのが見えた。


「ぐごぉぉぉげぇぇぇ」


軍服の男は(うめ)き声を上げながら、こちらへ近付いて来る。

マリーは脇道に身を隠し、その男がやり過ごすのを待った。


(やっぱり幻異界と(つな)がってるエリアだ。ジェノコアの仕業だな。メモヴェルスも反応してるし、イシュクワの屋敷まで行くのは相当骨が折れるかも)


マリーは見つからぬよう(かが)みながら街の奥へと進み、なんとか国立公園に辿り着いた。

平民の憩いの場として自然豊かな公園で有名だったが、今は見る影もなく、花や木々が燃やされているため、荒廃とした景色だけが残されていた。

また軍服の男と同じく、公園ではフラフラと死人のように歩いている者が何人か散見され、恐らく彼らは原生種に寄生されたと考えられる。


(むご)いことするな……イシュクワの屋鋪に近くなるほど、あんなゾンビみたいな奴が増えている感じだ)


……すると突然、頭上から舞い降りて来る者がいた。

その男は勢い良く地面へ着地すると、落下した衝撃が波動となって周囲に伝わり、死人のように歩いている者たちを次々と吹き飛ばした。


「あれは……ヴォラレウス!」

マリーは日本刀を鞘に収めて、空から現れたヴォラレウスに歩み寄る。

「どうしたの? もしかして助けに来てくれたのか?」

だがヴォラレウスはマリーに背を向け、黙ったままである。

「なんで黙ってるのさ?」

「……邪魔者は消し去った。これで正々堂々と戦えるな」

そう言うと、ヴォラレウスは腰に(たずさ)えた剣を引き抜き、マリーにその切っ先を向けた。


「どうやらおまえは忘れているようだ……我は悪しき者の刺客なり。よっておまえのイーテルヴィータをここで閉ざす!」

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