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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
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兆候

――一週間後。


ヴォラレウスは太陽の下でマリーに稽古(けいこ)を付けていた。

マリーも要領を得たらしく、ヴォラレウスの衝撃波を上手く(さば)きながら立ち回っているが、肝心の『原初の力』に本人が目覚めた様子はない。


「攻撃をいなすだけでは我に勝てぬぞ! 地脈の力を足元から感じ取れ!」


ヴォラレウスは小枝を振る速度を増し、何度もマリーの日本刀に向かって叩き付けた。

受けているマリーは力負けしたのか、ドン! という衝撃音と共に後方へと吹き飛ばされてしまう。


「イタタタ……」

「これでは真の力に目覚めぬ。上手く捌けば良いというものではないからな」

「だって1万回は攻撃を受けろって言ったじゃん」

「それは単なる例えだ。1万回で目覚める者もいれば、3千回ほどで目覚める者もいる。技の本質を(つか)まねば、悪戯(いたずら)に時間だけが過ぎてしまうぞ」


マリーは立ち上がり大きく日本刀を縦に振り払う。

だが衝撃波が出ることはなく、ヒュンヒュンと(むな)しい音が辺りに響くだけだった。


「ううう、悔しい……」

「昼の練習はこれくらいにしておこう。瞑想でもして、しばらく考えるのだ。おまえは武器を操る技術は達者だが、本質的な部分が(おろそ)かになっておるからな」

「本質的な部分って何よ?」

「それを考えろと言っておるのだ」


マリーは頬を(ふく)らませ、ムカついた様子で廃城の中へと戻る。

その背中を見ていたヴォラレウスは、やれやれという感じで大きく溜息を()いた。


……そして夜になり、マリーは廃城の最上階で床へ座って一人で瞑想に(ふけ)っていた。

すると、背後でコンコンと扉をノックする音が聞こえたため、マリーは「どうぞ」と声を掛けると、部屋の中に夕食を持ったイシュクワが入って来た。


「なんだ、イシュクワか」

「夕食、食べてないでしょ? このテーブルに置いとくね」

「そういや食べてなかったわ。ずっと瞑想してたから忘れてたよ」

「……食べるの忘れるほど集中してたの?」

「う~ん、集中してたと言うより腹の立つことが多過ぎて、それをずっと思い出してた感じかな。あの昆虫親父、本質的な部分が欠けてるとか言うんだもん」

「でもマリーって凄く強かったんだね。遠くから二人の稽古を見たけど、人間離れしてるというか……」

「ああ、それはメモヴェルスのお陰だよ」

マリーは懐からメモヴェルスのカードを取り出す。

だが、そのカードは太陽のように煌々(こうこう)と輝いていたため、イシュクワは思わず目を閉じてしまった。

「あっ、ゴメンゴメン。(まぶ)しかった?」

「驚いた……マリーの手元から日の光が出て来たと思ったよ」

「これをね、遠い日本と交易するポルトガルの商人から手に入れた時さ、未来の記憶を思い出したんだ。日本刀もその時に(ゆず)り受けたんだよ」

「未来の……記憶? 過去じゃなくて?」

「う~ん、ややこしくなるから説明は(はぶ)くけど、つまりは以前に習った剣術を思い出したって感じ」

「へえ、なんだか不思議な話だね。お父様や妖精さんのことがあって、少し慣れたかも」

その言葉で、マリーとイシュクワは一緒に笑い出した。

「お子さんは? 今どうしてるの?」

「お父ちゃんがね、人間は二本足で立てるようになったら何処へでも行ける! とか言い出して、息子を連れて行商の旅に出たよ。とは言っても2週間くらいで帰って来るし、乳母も一緒だから心配はないと思うけどね。私は用事があってここに残ったんだ」

……イシュクワは急に表情が曇る。

「マリーは……お父様を殺すの?」

「ああ……そのことだけどね、イシュクワ」

マリーは真剣な顔になり、イシュクワと正面から向き合う。

「あなたのお父さんはもう人間じゃない。あの人には別の生き物が体内に寄生してるんだ。もう見たと思うけど」

「あの不気味な舌のことですか? あんなものがお父様の体の中に……」

「うん、そいつがお父さんをコントロールしてるの。だからイシュクワの言葉は、残念だけど彼の耳には届かないと思う」

マリーの話で、イシュクワは黙ったまま(うつ)いてしまう。

「受け入れられないのは分かってる。でも、この国に戦争が起きるのは彼の影響によるものなの。それは間違いないんだ、だから私が止めないと」


――すると、遠くの方でボウッと炎の光が上がるのが見えた。

二人は慌てて窓から外を景色を見ると、ダイロスの街が燃えているのが分かった。

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