共通の敵
マリーは廃城を出てヴォラレウスを探すと、一人で朝日を見つめていた彼に遭遇する。
「え~っと、そこにいるヴォラなんとか!」
「ヴォラレウスだ、名前くらい覚えよ。どうやら怪我は治ったようだな」
「お陰様でね。イシュクワが看病してくれたから」
「その割には治りが早いような……まさか過去を書き換えたのではないだろうな?」
「それは答えられないね。色々と詮索されるとこっちが困るし」
マリーの話を聞くと、ヴォラレウスは苦笑いを浮かべながら、近くに落ちていた小枝を拾う。
「話したくないならそれでも良い。で? その右手に握っている刀を見ると、どうやら昨日の続きがしたいようだな」
「もちろんだよ。1万回くらい受ける必要があるんでしょ。やるなら体力のある内にやる!」
「……良い心掛けだ」
ヴォラレウスはマリーに近付くと、昨日と同じように小枝を大きく振り被り、マリー目掛けて打ち下ろした。
――そして2時間後。
イシュクワは目を覚ますと、階段を下りて食堂と思われる場所へ足を踏み入れた。
食堂の中央では、ヴォラレウスが一人で朝食を食べている。
「あの……」
「ジェノコアの小娘か、焼いたパンを用意してやったから食べるが良い」
「マリーは……マリーは何処ですか?」
「そこで気絶しておる」
ヴォラレウスの指差した場所をイシュクワが見ると、パンを手にしたマリーが泡を吹いて床に倒れていた。
「食べている途中で気絶しおったわ」
イシュクワが慌てて駆け寄り、倒れているマリーを抱き起した。
だが、起こされてもマリーは白目を剥いたままである。
「心配するな、いずれ意識を取り戻すだろう。今日は我が稽古に良く耐えた方だと言えるな。この者は、おまえの看病のお陰だと感謝していたぞ。もしやイシュクワとやら、おまえは過去を書き換える力に目覚めたのか?」
「それは……上手く説明できないけど、妖精の助けがあったからです」
「フッ、妖精か。なかなかに面白い表現だ。その妖精は恐らく、おまえの体に入り込む予定だったが、この世界が以前のものとまるで違うため、それが出来なかったと見えるな」
「言っている意味が……分かりません」
「理解せずとも良い。どうせおまえの父親からも、散々不可解なことを教えられただろうからな。一つ忠告しておきたいのは、あまり過去を書き換える力を乱用してはならんぞ。下手をすると命を落とすことになり兼ねん」
そう言うと、ヴォラレウスは気絶しているマリーの頬を軽く叩いた。
「この者は筋が良い。すぐに我が教えた技を会得するだろう。だから必要以上に回復してやることはないのだ」
「そうですか……分かりました。こちらも質問しますが、あなたは私たちの味方なのですか?」
「難しい質問だな。味方とも言えるし敵だとも言える」
「でもこうして私たちを助けているから味方なのでしょ?」
「……お互いに共通の敵がいるから手を貸しておるのだ」
「その敵とは?」
「おまえの父親……つまりジェノコアだよ」
父親の名前を聞いて、イシュクワはしばらく黙ってしまう。
「認めたくはないだろうが、おまえの父親の所業は人間にとって明確な悪である。しかしながら、我が直接手を下せば戒律違反となってしまうため、マリーの助けが必要なのだ」
「もしマリーが断ったら?」
「それはない。この者の運命は避けられないからだ」
ヴォラレウスはイシュクワの肩にそっと手を置く。
「もうジェノコアは自分の父親ではないと思え。すでに歯車は動き出している。父親の所業で国が滅ぶ様を見たくないのなら、おまえは他国へ逃げるといい」
そう言葉を残すと、ヴォラレウスは背を向けて食堂から出て行った。




