原初の力
マリーは自分の両腕を見ると、所々に内出血が起きて血管が浮き出ており、握力もほとんど失われ、とても日本刀を握れる状態ではなかった。
……だが、ヴォラレウスは再び小枝を振り下ろしてマリーに打撃を加えようとする。
マリーは痛みを堪えながら前転して攻撃を避けると、歯を食いしばりながら日本刀を手に取り、頼りない足取りで立ち上がって正眼に構えた。
「根性はあるようだな」
「あ……あんた、こんなことして何が目的なの?」
「おまえを鍛えてやると言っておるのだ。今のままでは、どちらの刺客にも勝てないだろうからな」
「物理的な攻撃が効かないって聞いてたけど、この衝撃を与えるような力を得ないと勝てないってこと?」
「そうだ。これは錬金術で言えば四大元素、また東洋の陰陽道で言えば五行思想の一つである『土』の力に該当する。人間の世界においても応用が可能な技だ。例えば中国武術の一つである八極拳の震脚や、日本相撲の鍛錬に当たる四股も『土』の力を最大限に活用したものである」
「だけど、これほどの衝撃は生身の人間じゃ生み出せないよ」
「おまえは原初の力に目覚める必要があるからだ。地脈を感じ取って正しく体幹に伝え、その波動を切っ先に向けて放つのだ。それを体得すれば、こんな小枝でも相手を死に至らしめる。物理的な攻撃が効かないとはそういうことだ、見た目に騙されてはいけない」
「こ、こんなのを1万回も……無理だって無理!」
「お喋りは終わりだ。手加減してやるから、黙って受けるが良い!」
ヴォラレウスは小枝を横に払ってマリーの脇腹を打とうとしたが、日本刀を縦に構えて攻撃を防ぐと、キィンと金属音が鳴り響いて攻撃の手が止まった。
だが次の瞬間、全身に凄まじい衝撃が伝わり、マリーは日本刀を持ったまま数メートルほど吹き飛んで地面へ頭から落ちる。
(ただの打撃じゃない……! 体の奥に響くような衝撃が後から伝わって来る感じだ)
マリーは日本刀を杖にして立ち上がり、もう一度ヴォラレウスと向き合う。
「も、もう一回」
「ほう、良い心掛けだな」
ヴォラレウスは地面を蹴って前方へと飛び出し、マリー目掛けて小枝を横へと薙いだ。
その行動を見たマリーは、体を回転させながら攻撃を避けて見せる。
(……攻撃を躱して相手の隙を突くのが最適解だね!)
だがマリーがそう思ったのも束の間、突然、背中に鋭い衝撃と痛みが走り、まるで上から殴られたように地面へ倒れてしまう。
「攻撃を躱しても無駄だぞ。この技は、おまえの周囲にある気の流れさえも支配する。神速と呼べるほどの素早さを身に付けねば、衝撃波から逃れることはできん」
そう言うとヴォラレウスは、倒れているマリーに向かって再び小枝を打ち込もうとする。
朦朧とした意識の中、マリーは何とかヴォラレウスの攻撃を防いで見せるが、すでに体力が尽きているため、下手をすれば命を落とす危険性があった。
「止めてください! 死んでしまいます!」
意識を取り戻したイシュクワが、倒れているマリーを庇ってヴォラレウスの手を止めた。
「退け、ジェノコアの小娘」
「いいえ退きません! こんな一方的に甚振るなど卑劣な所業です!」
「ふむ……」
ヴォラレウスは少し口を尖らせると、つまらなそうに小枝を投げ捨てた。
「今日はこれくらいにしておこうか。傷の手当てでもしてやるといい」
イシュクワに背を向けたヴォラレウスは、その巨体を揺らしながら廃城の中へと消えた。
見ると、マリーは額から大量の汗を流し、すでに虫の息の様子である。
心配したイシュクワはマリーを背負って廃城の中へと入り、清掃が行き届いている部屋を見つけ、中央にあるベッドにマリーを寝かした。
――そしてしばらくすると、マリーの寝顔を見ていたイシュクワの耳元に奇妙な声が囁く。
【イシュクワさんイシュクワさん、マリーを助けたいですか?】




