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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
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ヴォラレウス

腹の底に響くような男の声がしたため、ジェノコアは身を起こして声の正体を確かめる。

そこには背中から昆虫のような羽が生えている巨大な男が、庭の中央で仁王立ちしていた。


「……おまえはヴォラレウス! 私を邪魔立てするのか?」

「邪魔などしておらん。だがな、ここまで現実の世界に干渉するは戒律違反(かいりついはん)だと申しておるのだ」

「黙れっ! おまえは悪しき感情が満たされぬ世界に嫉妬(しっと)しているのだろう? 己の養分が足りないから、私を恨んでいるのだ」

ヴォラレウスと呼ばれた男は、ジェノコアの話を聞くと苦笑いを浮かべる。

「……どうやら誤解しているようだな。我はあくまで戒律違反だと指摘したまでだ。この世界での貴公の影響力は十分理解しておるし、それを阻害(そがい)するつもりもない」

そう言うと、ヴォラレウスはマリーを肩に(かつ)ぐ。

「何処へ連れて行く? その娘は私の得物だ!」

「貴公は少し(たが)が外れているようだ。ダイロスのような小国で勃発(ぼっぱつ)する紛争への誘導は大目に見てやるが、いずれは大国同士の争いにまで発展した場合、貴公にはそれなりの裁きを受けてもらう必要がある。ようは調子に乗るなという意味だよ」

「ぐっ……!」

「それから、このマリーという娘だけでなく、イシュクワも人質に取る」

「なんだと! それは認められんぞ!」

「文句があるなら力ずくで我から奪え」


見ると、ヴォラレウスの右肩にはマリーが担がれ、反対の左肩に気を失ったイシュクワが現れた。

二人の存在を確認すると、ヴォラレウスは空高く飛翔し、月夜の闇の中へと消える。

ジェノコアは空を見上げながら強く唇を噛み、その傷口から一筋の血が流れ落ちた。


飛翔したヴォラレウスの向かった先は郊外にある廃城であり、その廃城の庭へ舞い降りると、担いでいたマリーとイシュクワを肩から地面に下ろした。

そしてヴォラレウスは近くの井戸で水を()み、その水をマリーへ思い切りぶっ掛ける。


「わっわっ! 何? 何が起こったの?」

「……目を覚ましたか」

マリーはすぐ(そば)にいる巨大な男の存在に気が付き、思わず体を強張(こわば)らせる。

「あんた誰?」

「我の名はヴォラレウスだ。おまえたちが悪しき者と呼ぶ、幻異界の刺客である」

ヴォラレウスの言葉を聞いて、マリーは咄嗟(とっさ)に後ろに下がって臨戦態勢(りんせんたいせい)に入る。

「何をしている? 我は襲うつもりはないぞ。それに、拳一つで戦いを挑むなど愚かにもほどがある」

「だってあんた、悪しき者の刺客でしょ? 私を殺すことが目的なんじゃないの?」

「確かにそうだが、今はその時ではない。まずは落ち着いて我の話を聞け」

ヴォラレウスは懐から何か取り出し、それをマリーの前に投げ捨てる。

見ると、それはマリーの愛刀であり海斗の愛刀でもある『兼佐陀・紫電』だった。

「穂積海斗……いや、今はマリーか。おまえは銃も持っていたはずだが、あれはどうした?」

「あれは……多分、時代にそぐわないから、メモヴェルスが再現できなかったのかも」

「ふむ、そうか。では日本刀だけで実戦を磨けば良い」

そう言うと、ヴォラレウスは地面に落ちていた小枝を拾って、その場でブンブンと振り回した。

「これをその日本刀で受けてみよ」

「……へ?」

するとヴォラレウスは小枝を持って大きく振り被り、そのままマリーの頭を目掛けて打ち下ろした。

マリーは言われた通り、日本刀で小枝を受け止めようとする。


――ガキィィィン!


刀身と小枝が交わった時、凄まじい衝撃がマリーの全身に伝わり、日本刀を握っていた手を思わず離してしまう。

マリーはあまりの痛みで意識が飛びそうになり、額から大量の汗を流しながらしばらく沈黙する。


「……これを1万回ほど受けて(もら)うぞ。おまえの力が目覚めるまでな」

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