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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
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月夜の死闘

「馬鹿の一つ覚えだな、切り刻むことしか頭にないのかね」


ジェノコアは切り落とされた左腕を手に取ると、自分の体に()めて元に戻し、しばらくすると再び動き出した。

「確かイシュクワの学友だったかな? 今度は女性に生まれ変わったのか。名前はどちらで呼べば良いのだ?」

「マリーでも海斗でもお好きなように」

「ではマドモアゼル・マリー。メモヴェルスを手にした時はさぞかし驚いただろうな。性別も違えば人種も違う、国も違えば時代まで違っているとは、転生慣れしている君でもさすがに戸惑っただろう」

「そうだね。七奈美さんはシンクロする体がないから、次元の狭間(はざま)彷徨(さまよ)ってるよ。イシュクワが最もシンクロする力が強かったみたいだけど」

「おやおや、大事な愛娘(まなむすめ)の身体を乗っ取るとは不届きな連中だ。そんな輩は成敗せねば」

ジェノコアは壁に掛けてあったレイピアを手に取り、切っ先をマリーに向けて構えた。

「お相手しよう。こんな狭い食堂では試合にならぬから、月夜の下で刃を交えようではないか」


――突然、ジェノコアの腕が触手のように伸びてマリーの首を(つか)み、そのまま窓に向かって放り投げた。

投げ飛ばされたマリーは、窓ガラスを突き破って外の庭へ着地する。


「お忘れのようだが、すでに君は20年の壁を越えている。つまり、私たちに物理的な攻撃は一切効かないのだよ。いくらその日本刀で切り刻んでも、私の体は再生を繰り返すため、君が倒れない限りは永遠に決着が着かないぞ」

そう言いながら、ジェノコアは窓から出て庭に足を踏み入れた。

「それなら再生が追い付かなくなるまで、何度でも斬るのみ!」


マリーは前方に飛び出して、ジェノコアの首を斬り飛ばそうとする。

だがジェノコアは即座に反応し、レイピアで横に()いだ日本刀を弾き飛ばした。

幸いなことに、日本刀が手から落ちることはなかったが、その俊敏(しゅんびん)な動きを目にしてマリーの表情に(かげ)りが見え出す。


「どうした? 早くも動揺しているようだなマドモアゼル・マリー。20年離れの雑魚ばかり相手にしているから、君の刃も軽くなっているぞ。いずれにせよ、私の相手ではないな」

「うるさいな! まだ戦いは始まったばかりでしょ。それに……」

マリーは飛び上がり、ジェノコアの頭を目掛けて日本刀を打ち下ろすが、真横に構えたレイピアがその攻撃を防いでしまう。

そして鍔迫(つばぜり)り合いの最中、マリーが怒気を含んだ口調でジェノコアにこう告げる。


「私はマダム・マリーなの! 結婚して子供もいるんだから!」


その言葉を聞いたジェノコアは、レイピアを薙いでマリーの体を突き飛ばす。

「フハハハハ! それは失礼。では身体は女性で、心は男性ということでよろしいかな?」

「違うよ。メモヴェルスは記憶と能力を引き継ぐだけで、転生後はその人間の性格が九割を占めるんだ。生まれ変わりってそういうものでしょ」

「……なるほどな。それなら穂積海斗の使命も放棄(ほうき)したら良かろう。君には君の幸せがあるだろうに」

「そうしたいけどさ、あんたがこの国を滅ぼそうとしてるのを聞いて、黙ってられなくなったんだよ。私の子供にまで被害が及ぶからね」

「では取り引きしようか? 君の人生の安泰(あんたい)を約束しよう。私を自由にしておけば、君の子供に手を出すことはないだろうし、他の国に新しい住まいを提供するが」

「……そういう取り引きはねぇ、以前にもあったんだよ。だけど、今回ばかりは七奈美さんを裏切れないんだわ」

「そうか、それは残念だな」


――そう言うと、ジェノコアは腕を伸ばしてマリーの首を掴み、頭上に掲げるように体ごと持ち上げる。


「まあ君の言いたいことも分かる。ダイロス共和国はとても美しい国だからな。だが、この街並みを創造したのは他でもない我々なのだよ。また、この時代を選択したのも我々だ。確かに偉大な芸術作品を失うようで私も心が痛む」

「ぐっ……! じゃあ戦争を起こす必要なんてないでしょ!」

「人の子は少々複雑でな。大きな災厄が起きなければ善と悪の境界が明確にならない。これは魂の成長を(うなが)す教育の一環(いっかん)でもあるのだ」

「何が教育の一環だよ! それで多くの人が死ぬのを受け入れろって言うの? 冗談じゃない!」

「……これ以上話しても(らち)が明かんな」

ジェノコアは掴んでいた手に力を入れ、マリーの首を締め上げる。

「では君のイーテルヴィータを閉じてやろう。私の相手にはならなかったが、なかなか楽しい戦いだったよ」


ギリギリと締め上げる音が周囲に響き渡り、マリーの顔が青褪(あおざ)め始める。

首の骨が折れる一歩手前、ジェノコアがニヤリと笑い「死ね」とマリーに告げた時、突然、周囲に漂う空気の流れが一変する。

そして次の瞬間、凄まじい衝撃波がジェノコアの体を貫き、彼は数十メートルほど吹き飛んで建物の壁に激突した。


「幻異界の刺客よ、貴公は人間の世界に干渉(かんしょう)し過ぎだ。これは重要な戒律違反(かいりついはん)である」

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