転生者
「おまえまさか……善き者を体に寄生させたのか!?」
海斗は七奈美の姿を見て色々と悟った。
彼女は自分の体を触媒として『刻殺しの間』を開放し、氷魚と汐音に力を与えたのだ。
だが1人で2人の過去を書き換えるのは限界があるため、善き者と手を組み、自分の体に寄生させることで力を増幅したと考えられる。
(馬鹿なことを……善き者を体に寄生させるなんざ、凄まじい痛みで気が狂いそうになるぞ)
……こうして海斗を前にしても、七奈美からは一向に返事がない。
七奈美を覆う生物膜はドクドクと激しく波打っており、彼女の身体だけでなく精神まで蝕み、もはや人間としての尊厳は失われているかのように見える。
すでに本人は息絶えているのかもしれないが、善き者が寄生してしれば、死ぬに死ねない体のはずである。
見ると、七奈美の右手だけが異様に肥大しており、恐らくそこに善き者が寄生していると海斗は見抜いた。
(……胸糞が悪いな)
海斗はしばらく腕を組んで考え込み、心の中で一つの答えを出した。
そして部屋を出て来た道を戻ると、再びドゥルルと顔を合わせる。
「どうだ? 善き者がいたと思うが」
「ああ、いたよ。七奈美の体に寄生していた」
「では七奈美を抹殺するが良い。宿主が死ねば善き者も自然に力を失うだろう。この時代は我の影響力がより強くなり、実効支配しやすくなるはずだ」
「あのさ、俺はおまえを裏切らないと約束したよな?」
「ああ……そう言ったが」
「あれは嘘だ」
海斗はリボルバーの銃口をドゥルルの頭に向けて引き金を引いた。
脳天に風穴を開けられたドゥルルは、大きく体を仰け反らせながら、ドスンと音を立てて地面に倒れる。
「悪いな。おまえと組んでもこの世界、クソつまらねぇんだわ」
海斗はドゥルルが死んだことを確認し、銃をホルスターに収めると、もう一度七奈美のいる部屋へと向かった。
――氷魚と汐音が見せたくないのも分かる。
あんな醜い姿になってまで俺の暴走を止めたいのかと思うと、海斗は背中までむず痒くなるような気がした。
そして七奈美が囚われている部屋のドアを開け、再び本人と対面する。
「おう七奈美、ずいぶんと痛い目に遭わせちまったな。あんたの覚悟、ちゃんと見届けたぜ」
そう言うと海斗はリボルバーを取り出し、肥大している七奈美の右手に銃口を向けて引き金を引いた。
ギィヤヤヤァァァ! と凄まじい悲鳴が周囲に響き渡ると、右手から液体状の塊がドロリと飛び出し、そのまま地面に落ちて動かなくなった。
善き者が死んでも、壁に張り付いた七奈美の目は閉じたままで、恐らく彼女は数分後に息絶えてしまうと思われた。
「じゃあな、来世で会おう!」
海斗はリボルバーの銃口を口に咥える。
そして少しだけ口角を上げ、何故か自嘲気味に笑い出した。
「……いや違うな、前世か」
そんな冗談めいたことを言いながら海斗は引き金を引き、リボルバーの銃弾で頭を撃ち抜かれて絶命した。




