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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第三章 穂積海斗 20歳
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殲滅者

――三日後。

ラマノフの長兄がサンガルスキー海峡まで進出しているとの情報を得たため、海斗はイビシュチ地区のホテルに身を隠していた。


(計画通りだな……この地区もやがて戦場になる)


一方で悪い噂も耳にしている。

王虎のアジトが何者かによって襲撃され、組織が壊滅状態(かいめつじょうたい)になったという噂だ。

海斗とドゥルルにとっては無視できない話なので、噂の真相を確かめる必要があった。


「……じゃあ行って来る」

海斗は日本刀を(たずさ)えホテルから出ようとすると、ドゥルルが背後で呼び止めた。

「なんだよ?」

「確かめておくが、王虎の連中を殺すなよ。どんな理由があってもだ。ヌシからは正義を行う感情の高揚(こうよう)が見られるからな」

「そんなもの感じ取るんじゃねぇよ。俺に正義の味方は似合わないからな」

「その言葉を信じよう。この地域が戦場になるまでの我慢だ。もし約束を(たが)えば、代わりに善き者の殲滅(せんめつ)をヌシに頼むことになるぞ」

「面倒クセェな、おまえが善き者を直接殺せばいいだろ。この地域をカオスにするより、よっぽど効率的だと思うがな」

「それはルール違反だ。幻異界の核に住まう善き者たちが決して許さない。我は一瞬で消されてしまうだろう」

「分かった分かった、とにかく王虎の奴らを殺さなきゃいいんだろ? アジトを調べて来るから、黙って待ってろ」

海斗はそう言うと、ドアを開けて部屋から出て行った。

……そして1時間ほど車を走らせて王虎のアジトへ向かうと、その手前で頭を潰された死体が地面に横たわっており、さらに進むと首を切られた死体がいくつか積み重なっていた。


(なんだ……こいつは?)


海斗は車を停めて周囲を見渡すと、激しい銃撃戦が行われた後なのか、建物の壁に無数の銃弾が撃ち込まれた跡が残っている。

軍隊でも来たのかと思わせるような光景だが、海斗には心当たりがあった。


(……チッ、あの汐音って野郎が来たな)


海斗は車から降りると、日本刀を鞘から引き抜いて、周囲を警戒しながらアジトの建物に入った。

そして一つ一つの部屋を調べ、ここで何が起きたのかを確認すると、予想した通り死体の山が築かれており、おそらく王虎の連中はほとんど殺されたと考えられる。


(また派手にやりやがったな。俺ら幻異界に関わる者が、ここまで現実世界を荒らすのはマズいだろ。七奈美が許しているとしたら大問題だ)


――その時、背後でカチャリと小さな音が鳴った。

即座に海斗は振り返って日本刀を正眼に構えると、ヒュッと上段から斬り落とされた軌道(きどう)が見えたため、咄嗟(とっさ)に日本刀を真上に掲げて攻撃を防いだ。


「何をしに来た? 穂積海斗」


現れたのは汐音である。

以前とは違い、深紅に染まった仮面を被っておらず、可愛らしい顔にアンバランスとも思われる鋭い視線が海斗を(とら)えていた。


「おまえな、ここまで王虎の連中を殺すことはないだろ。俺ら幻異界に関わる者が、現実世界に影響を与えるのはタブーだって教わらなかったのか?」

「……1027人だ」

「は?」

「1027人だ、ここの連中が臓器売買で世界中から誘拐した子供たちの数さ。貴様はこの数字を聞いて、それでも冷静でいられるのか?」


――海斗は日本刀を鞘に収めると、軽く溜息を吐いて汐音を見る。


「俺だって憎いさ。でもな、その度に悪党を殺してたらおまえの心が先にぶっ壊れちまうぞ。人間を超えた力を手に入れた俺たちには、それなりの責任ってものが生まれんだよ。特にこの時代は悪しき者の影響が強く出てるから、慎重に行動しないと死者が芋づる式に増えちまう」

汐音の瞳からボロボロと涙が(こぼ)れ落ちる。

「う、うるさいっ! 貴様だってロシア人の組織を潰しただろ!」

「まあな、言い訳はしねぇよ。だからやり過ぎないよう、おまえとこうして話しながら反省してるんだ。こいつら悪党と同じ土俵に立ったら(みじ)めだと思うからな」

「…………」

汐音はしばらくの間黙ってしまう。


お互いに沈黙する時間が続いた後、おもむろに海斗が口を開いた。

「……俺は七奈美と会う。何処にいるのか教えてくれ」

その言葉を聞くと、汐音の表情がガラリと変わって敵意()き出しになる。

「それは駄目だっ! 会わせるワケにはいかない」

「どうしてだ? 別に問題があるとは思えないが」

「氷魚っ!」


汐音は氷魚の名前を呼ぶと、部屋の壁を突き破ってハンマーを手にした彼が現れた。

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