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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第三章 穂積海斗 20歳
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傍観者

汐音は仮面を取って(おび)えている子供に歩み寄り、優しく抱きしめた。


「相変わらずクズなビジネスやってるなここは」

海斗が軽く溜息(ためいき)を吐いた後に愚痴(ぐち)ると、「……どういう意味だ?」と汐音が()く。


「その子供や少年たちの臓器を売るんだよ。この辺りだと中国マフィアの『王虎』の奴らに引き渡すつもりだったんだろうな。中国政府による最近の反日教育は、殺人を肯定する教育になりつつあるし、国力低下のために子供たちは恰好(かっこう)餌食(えじき)になる」

「……王虎」

汐音は怒りで唇を強く噛み締める。

「ラマノフはドラッグのビジネスが中心だったが、ダニールは中国人との取り引きを好んでたから、そのニーズに応えるためこうして子供たちを……」


――すると急に立ち上がった汐音は、海斗に近付いて平手で頬を思い切り引っ叩いた。


「なにしやがんだ!」

「見て見ぬフリをしている貴様だってクズの一人だろ。そんな残酷な話を平然とペラペラ喋る、下劣(げれつ)極まりない気質が貴様の本性だ」

「うるせぇな。こいつら兄弟に逆らうと命が危ないんだよ。それがこの界隈(かいわい)の世渡りってもんだろ」

「腐っている者に何を話しても通じないか。一生、その腐臭を吐き出しながら生き続けるといい。さっさとこの部屋から出て行け!」

汐音は剣を海斗に向けて、部屋から出て行くように(おど)す。

「……ケッ、どんな奴でも事情ってものがあるだろ。弱肉強食って言葉を知らないのかよ」

「それを打開するのが人間の責務(せきむ)だ。創造主のクセにそんなことも分からない貴様は、人間よりも(はる)かに劣る存在だと断言できるな」

海斗は不満そうに床へ唾を吐くと、言われた通り、汐音に背を向けて部屋を去った。


(……創造主の自覚なんて元からねぇよ、アホども。それに俺は人間なんだよ)

そう心の中でブツブツ(つぶや)きながら、海斗はアジトの建物から出ると、そこにはドゥルルが電柱の上で胡坐(あぐら)をかいて座っているのが見えた。

「おまえ……何をしてるんだ?」

「ヌシを監視する意味でここへ来た。あまり死体の山を築かれても困るのでな」

「それは残念だ。俺じゃなく先客が死体の山を築いたぜ、芸術的なほどにな」


……ドゥルルは「ううむ」と(うな)り、腕を組んで考え込んでしまう。


「なんでそんなに困るんだよ。別に悪党がいくら死んでも構わないだろ?」

「分かっていると思うが、我らは人間の恨み、(ねた)み、殺意といったネガティブな感情を糧としている。原生種は人間を直接喰らう時もあるが、悪意ある人間が吐き出す息や体臭でも養分となるのだ。生かさず殺さずで頼む」

「そんな器用なことができるか。あいつら殺す気マンマンなんだぜ」

「……ヌシとの計画を今一度確認しておきたい。ちゃんと理解しているのか?」

「ああ、まずはダニールとラマノフの長兄を怒らせて、ロシア祖国から引っ張り出す。兵隊が集まったところで、中国マフィアの奴らと仲違(なかたが)いさせるって筋書(すじが)きだろ?」

「それまでは必要以上に殺すなよ。個人的な恨みがあってもだ」

「もうダニールもラマノフも死んだんだ、この地域に恨みを持つ人間なんていねぇよ。さあ行くぞ、おまえを殺そうとする奴が建物の中にいる。俺でも彼女の攻撃を防げるか分からないからな」


そう忠告すると、ドゥルルは幻異界と繋がって瞬時に姿を消し、残された海斗は足早にアジトを後にした。

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