侵入者
「無事か? 海斗」
氷魚が去った後にドゥルルが姿を現した。
「おい、少しは手助けしてくれよ」
「我は物理的な攻撃が効くため、例え人の子でも殺されてしまう可能性がある。その代わり、原生種を仕向けたから文句を言うでない」
「まあそうか、おまえが死ぬと困るもんな」
海斗は手で服の埃を払い落とすと、日本刀を手に取って建物の外に出ようとする。
「……何処へ行くのだ?」
「ダニールの組織を潰してくる。なんだか色々と動き出しているような気がしてな、厄介事は早く済ませておきたい」
「ふむ、ならば原生種を奴らのアジトに集中させよう」
「そうしてくれ。じゃあ行って来る」
――そして1時間後。
ダニールのアジトでは中国マフィアとの取り引きが行われていた。
王虎のメンバーと思われる3人が、ダニールの前に座ってロシア語と中国語が入り混じるカタチで何やら交渉している。
「1人の日本人に手子摺るとは奇っ怪な話だな。俺ら王虎が10人も人員を割くのはメンツが許さねぇ」
「……とは言ってもな、あそこに行った奴らが1人も帰って来ないのは事実だ。もしかしたら日本の政府が介入しているかもしれない。俺らにとってラマノフのアジトを失うのは損失がデカイんだよ」
「おかしい……この地域の役人なら買収を済ませてるけどな。友好国のロシアには手を出すなと言っているはずだが」
「それでも損害は出ている。俺もあそこで何が起きてるのか分からねぇ。だからそれだけの人数が必要なんだよ」
王虎の3人はヒソヒソと小声で相談を始め、その1人がダニールにこう提案する。
「分かった、10人用意しよう。だが、土産となるドラッグが少し足らねぇな。ちったぁ色付けて貰わないと」
「ラマノフのアジトを占拠したら、そこにある金やドラッグもくれてやる。それからこの間、日本人の子供と青年を3人誘拐したから、臓器を抜くなり好きにしてくれ」
王虎のメンバーは満足そうな表情を浮かべると、椅子から立ち上がってダニールに握手を求める。
「交渉成立だな。これからも長い付き合いで頼むわ兄弟」
「話の理解が早くて助かる。この土地はロシアとあんたたち中国のものだ。お互いにビジネスを発展させようぜ」
――その時、建物内の警報装置が遠くで鳴った。
「なんだ?」
「ボス! 監視カメラが侵入者を捉えました」
「馬鹿野郎っ! さっさと殺せ!」
ダニールの部下たちはライフルを手に取って、警報の鳴った区画へと向かった。
「おい、俺たちを警察に売ったんじゃないだろうな!」
王虎の1人がダニールを疑う。
「誓ってそれはない! 俺たちが始末するから待ってろ!」
ダニールはそう言うと、監視カメラのモニターがある部屋へと向かった。
警報が鳴り響く区画にダニールの部下たちが集まると、物陰に隠れて侵入者が現れるのを待った。
(……なんだぁ?)
見るとボディスーツに身を包んだ1人の女性が現れたため、ライフルを構えていた部下たちは拍子抜けする。
「おいおい、入るところ間違えたのか? とっとと失せな小娘」
だが、その女性は無視してこちらに歩いて来る。
両手には見たことのない曲がった剣が握られ、顔は深紅の仮面で隠れていたため、流石に不気味と思ったのか、部下の1人が威嚇の意味でライフルを発砲する。
――すると女性は大きく飛び上がって銃弾を避け、その勢いのままライフルを撃った男の首を刎ねてしまう。
「くそっ! 撃ち殺せ!」
即座に銃撃戦が始まり、辺りは砂埃が舞って一気に視界が悪くなる。
一斉射撃してもまったく手応えがないため、ダニールの部下たちは戦々恐々とする中、砂埃が落ち着いた頃には5人の部下が血を流して地面に倒れていた。
(いつの間に……!?)
それを見て表情が青くなった部下の首も飛び、その首はコロコロと転がって1台の監視カメラに映った。
監視モニターを見ていたダニールは怒りの声を上げ、放送マイクで侵入者を殺すようアジト全体に指示を出す。
――だが、ほとんどの男たちは返り討ちに遭い、無惨に死体の山が積み重ねられてゆく。
監視モニターには次々と部下たちが殺される様子が映し出され、それを見ていたダニールや王虎のメンバーが青褪め始める。
「お、おいっ! 大丈夫なんだろうな?」
「うるせぇ、今やってる! 女1人に俺たちが殺られるワケねぇだろっ!」
……しかしダニールの願いも虚しく、モニターにはこちらへ近付いて来る女性の姿が映し出された。
ダニールは慌てて机の抽斗からライフルを取り出し、近くを護衛していた部下たちに先へ行くよう指示を出した。
「おい、おまえが先に行け! 残った俺たちが援護してやる」
指示を出された護衛の1人は不満そうな顔をするも、意を決して部屋のドアを開けて廊下へ出る。
その後を2人が追ったが、「ぎゃあああ!」と叫び声が聞こえると、ドン、ドン、ドンと鈍い音が3回鳴った。
……恐らく、3人の首が飛ばされたのだろう。
「ちちち、ちくしょう! 撃ち殺してやる!」
残った護衛の部下とダニールは壁に向かって乱射したが、穴が開くだけで手応えはまったくなかった。
そしてダニールは銃を撃つのを止め、辺りが静寂に包まれる中、銃弾でボロボロになったドアを蹴飛ばして1人の男が入って来た。
その男は……海斗である。
「なんか派手にやってるな、ダニールさんよ。何が起こったんだ?」




