殺戮者
海斗はアジトの中央会議室へ足を踏み入れようとすると、見張り役の二人に呼び止められた。
「お、おまえは海斗じゃねぇか!」
二人はどちらもロシア人なので、海斗もロシア語で言葉を返す。
「戻ったぞ、ラマノフに会わせろ」
「会わせるワケねぇだろ! この場で撃ち殺してやる」
見張り役の一人が銃口を海斗に向けようとしたが、その時、会議室の中からラマノフらしき声が聞こえた。
「おい、構わないからそいつを中に入れろ。警察署から逃げたことは聞いている」
ラマノフに言われ、見張りの男二人は渋々会議室のドアを開け、海斗を部屋の中へ入れた。
中央会議室は30人ほどが入れる大きさの部屋であり、ドアの正面にボス専用のデスクが置かれ、そこに座ってラマノフは肉料理を食べていた。
周りには護衛の男が5人立っており、海斗を睨んで警戒している。
「……俺を裏切ったらしいな、ラマノフ」
「知らんな、なんの話だ」
「惚けないでくれ。お陰で歯と肋骨が何本か折れちまったぞ」
「そのまま死んでりゃ良かったのにな。おまえのような役立たずは俺の組織に必要ねぇ」
「何が役立たずだ! 俺がどれだけ組織に貢献したか分かってんのか? ここ数年でかなり潤っただろうが!」
ラマノフは肉料理の皿を海斗に向かって思い切り投げた。
皿は海斗に当たらなかったが、壁に当たって粉々に砕け散る。
「ボスの俺が役立たずと言えば役立たずなんだよ! おまえ、今の状況を分かってんのか? こいつらに撃てと命令したら一瞬でハチの巣にされるんだぞ。この数分間だけでも生き延びていることを幸運と思うんだな!」
そう言われ海斗は大きく溜息を吐くと、近くにあった音響機器に近寄ってスイッチを入れる。
「……何をしてやがる、海斗」
「どうせ死ぬんだ、最後にはノレる音楽を聴きながら死にたい。おまえの好きな音楽ってなんだっけか? ああ……確かプロコフィエフか」
海斗は音響機器を操作し、プロコフィエフの『ロミオとジュリエット』を大音量で流す。
ラマノフは近くの部下に音楽を止めるよう目で合図した。
「おい、海斗さんよ。調子に乗るのもいい加減にしろ」
護衛の一人が海斗の肩に手を置くと、次の瞬間、その男の腕が宙を舞って地面にドサリと落ちた。
「ひぎゃあああぁぁぁ!」
腕を切り落とされた護衛の男は、身悶えながら叫び声を上げたが、隣で海斗はまるで関心がないかのように目を閉じて音楽に聴き入っている。
危険を察したラマノフは、残りの4人に銃を撃つよう指示を出したが、その護衛たちはいつの間にか脳天を撃ち抜かれて床に倒れていた。
銃声を聞いた見張り役の二人が部屋の中に入ってきたが、海斗に一瞬で首を斬り飛ばされ、二つの頭がコロコロと床を転がった。
(なんだ……こいつは?)
悪夢のような光景を目にしたラマノフは、倒れている護衛からライフルを奪って銃口を海斗に向けたが、その隙を狙って海斗は懐に入り、ラマノフの腕を日本刀で叩き落とした。
ラマノフは切り落とされた腕を見て、狂ったように泣き叫ぶ。
「……お、おまえは本当に海斗か?」
「以前の俺とは一味違うだろ? 今さら気が付いても遅いがな」
「こんなことをすれば兄弟たちが黙ってねぇぞ!」
「構わねぇよ。おまえらのグループを叩き潰すまでだ」
海斗はラマノフのデスクに備え付けられた警報ボタンを押す。
「ここにいる奴らは20人ほどだったよな。まあ待ってろ、すぐに始末してやる」
海斗は会議室の部屋を出て、ラマノフの部下が来るのを待った。
ラマノフは部屋の外で激しい銃撃の音を聞いたが、20分ほどが経過するとピタリと音が止み、水を打ったように静まり返った。
「い、いや……止めてっ! 命だけは助けてください! 俺とあんたは同じ日本人じゃないですか、なんでも言うことを聞きますからっ!」
会議室の外でそんな会話が聞こえたが、数分後にはその声も途絶えてしまう。
そしてガチャリとドアが開く音が鳴り、海斗が一人で部屋の中に入って来た。
「全員あの世に送ったぞラマノフ。ここの拠点はもう終わりだ」




