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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第三章 穂積海斗 20歳
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逃亡者

ロシア人による拷問(ごうもん)(ひど)かったため、海斗は警察署でしばらく治療を受けた後、3日後に取り調べを受けることになった。

取調室で不貞腐(ふてくさ)れながら待っていると、ガチャリとドアが開いて1人の女性警察官が入ってきた。

「……あんたが俺を逮捕した女だな」

女性警察官は無言で海斗の前に座ると、持っていたファイルを取り出して机の上で開いて見せる。

「イビシュチ地区の犯罪組織に与する穂積海斗の資料だ。殺人が5回、強盗が2回、恐喝が10回と救いようのない犯罪歴が記録されている」

「全部容疑だろ。実際にやったって証拠はないんだぜ」

女性警察官はジロリと海斗を(にら)むと、全体の風貌(ふうぼう)を確かめた。

海斗の腕にはびっしりとタトゥーが刻まれ、首には犯罪組織の仲間であるという証拠のシンボルが、これもタトゥーで描かれている。

「今度はすいぶんと(すさ)んだ人間に転生したものだな」

「は? 何言ってんだあんた」

女性警察官は胸ポケットから1枚のカードを取り出すと、机の上に置いた。

「貴様が今までどんな人生を送ったかは関係ない。私にはなんら興味のない話だ」

「おいおい、警察官がそんなこと言っていいのかよ。今は取り調べをしてるんだろ?」

「このカードに触れて、貴様のイーテルヴィータを確定しろ」

「い……イーテルなんだって?」

「いいからカードに触れろ! 話はそれからだ」

そう命令され、海斗はぶつぶつと文句を言いながら出されたカードに触れようとした。

「……ちょっと待て」

女性警察官はカードを手で覆い隠す。

「なんだよ! 言われた通りにしたじゃねぇか!」

「いいか、これを悪用するんじゃないぞ。記憶が戻れば冷静な判断が出来ると信じているが、もし貴様の性格が変わらないのなら、この力は我々にとって脅威となる」

「……何を言ってるのか、まったく分からないんだが」

「触れた後に分かるさ」

そう言うと、女性警察官は再びカードを海斗に差し出した。

理解に苦しむ様子で海斗はカードを手に取ると、しばらく沈黙した後、驚いた表情を浮かべながら女性警察官を見た。

「あんた……名前は?」

「七奈美だ」

その名前を聞くと、海斗は深刻な表情へと変わる。

「思い出したようだな。これから貴様がどう行動すべきかを教えるぞ」

「…………」


――海斗は沈黙したままである。


そんな態度の海斗を横目に、七奈美はナイフを取り出して机の上に置いた。

「私を人質にして、この警察署から脱出しろ」

「……逃がしてくれるのか?」

「そうだ。だが、この警察署は日本でも有数の武闘派が集まっている。気を一瞬でも抜けば、袋叩きに遭うだろう」

「分かってるさ。何せロシア()りすぐりの犯罪組織が幅を利かせている地域だからな」

「分かっているなら話は早い……この部屋の外は戦場だと思えよ。まずは地下駐車場を目指してくれ」

海斗はナイフを手に取ると、七奈美の首根っこを(つか)みながら、そのナイフの切っ先を喉元に向けた。

そして七奈美と一緒に部屋から出て、海斗は周囲の警察官に怒号を上げる。

「おいっ、こいつを人質に取ったぞ! 全員動くな!」

警察官たちは海斗と七奈美を見ると、しばらく硬直した様子でこちらの動向を伺う。

中にはホルスターに収められている銃に手を掛ける者もいたが、海斗は危険を察知して七奈美の首にナイフを突き立てた。

「そこのおまえ、こっちに銃を向けるんじゃねぇぞ。この女がどうなっても知らないからな!」

海斗は脅し言葉を何度も飛ばし、周囲の警察官たちを黙らせる。

そのまま七奈美を連れてエレベーターへ乗り込み、海斗は地下駐車場に向かうボタンを押した。

「……まずは第一関門を突破ってやつか」

「逃走用のパトカーを盗むぞ。鍵なら私が持っている」

「おい、銃を寄越(よこ)しな」

「何故だ? 銃は必要ないだろ。ナイフ一本あれば十分脅せるぞ」

「護身用だよ護身用。備えあれば(うれ)いなしって言うだろ」

「……パトカーの後部席に1丁だけ隠してある。どうしても必要になれば渡してやろう」

「信用ねぇな」


そう言うと、海斗は軽く苦笑いを浮かべる。

明らかに今までの海斗とは違う性格のため、胸の内で七奈美は強い警戒心が生まれていた。


……そしてエレベーターが地下駐車場に着くと、七奈美の先導で一台のパトカーに乗り込む。

七奈美は海斗に鍵を手渡し、エンジンを掛けて地下駐車場から外の道路へと飛び出した。


「何処へ行くんだ?」

「街外れの廃墟になった病院へ逃げろ、そこなら安全だ。だが先に忠告しておくと、このパトカーのGPSを破壊したから、警察の連中が追って来る可能性は高い。上手く追跡を()くんだ」

「ああ、その病院なら知っている。何度もドラッグの取り引きで使ったからな」

「運転には自信があるか?」

「ここの海斗は、追い掛けられるの慣れてるんでね」


海斗はアクセルを全開にして、街外れの廃墟となった病院を目指した。

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