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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第三章 穂積海斗 20歳
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犯罪者

――どれくらい気を失っていただろうか?


少しだけ目を開けると、天井に吊り下げられた頼りない明るさの電灯が、キィキィと音を立てながら揺らいでいるのが見える。

周囲を見渡すと見張りの男が数人、椅子に縛られた俺を囲んで立っていた。

そしてバン! と大きな音がして部屋のドアが開くと、入って来た男が座っている俺にツカツカと歩み寄り、手で髪を(つか)んで俺の頭を持ち上げた。


「目を覚ましたか? クソ野郎が」


そいつはロシア語で俺に暴言を吐いた。


「そこにある水をぶっ掛けろ! 俺の話を聞かせてやる」


命令した男の部下が、バケツに入った水を俺の頭から全身に向かって流す。

()只中(ただなか)の季節なので、俺は冷たさで(もだ)えたが、それを見て周囲の男たちが一斉に笑い出した。


「俺の祖国じゃこんなのは寒さに入らねぇ。日本にいることを感謝するんだな」

「てめぇ……ぶっ殺してやる」

「おうおう吠えるねぇ。後で切り刻んで海に捨ててやるから、せいぜい威勢(いせい)のいいところを今の内に見せておくんだな」

「……なんで俺の居場所が分かった? 誰がチクりやがったんだよ」

「おまえの仲間だよバカが。自分の信用のなさを反省するんだな」

「何が信用だよ。おまえらロシア人が自分たちのシマを荒らされたくないから、俺ら日本人を締め出したんだろうが!」

「ならさっさとロシア人の組織から抜けて、自分たちの組織を作ったら良かったろ。まあしゃあないな、恨むなら歴史を恨みな。世界大戦後に祖国が東京を占領したのが始まりなんだよ。俺らの言うことに従わない日本人はクズ野郎だ」


突然、そいつは何度も俺の腹を拳で殴り続け、近くに落ちていたパイプで顔をフルスイングした。


「それを……日本政府は俺らロシア人をこの地から追い出そうとした! ここは俺らのもんだ、誰にも渡さねぇ!」


俺はプッと地面に唾を吐くと、血が混じった唾液(だえき)と共に折れた奥歯がコロコロと転がった。


「俺とは関係ない話だろ。ストレス解消のおもちゃになる気はねぇぞ」

「いいや、ストレス解消のおもちゃだ。おまえのボスだってそう思っているさ」


その男は部屋にあった道具箱からバーナーを取り出すと、スイッチを入れて点火し、俺の眼球に届くような距離で青い炎をチラつかせた。


「まずはその生意気な目を潰してやる。その後は針金でおまえの口を縫ってやろうか?」

「……クソがよ」

「おまえには仲間が5人殺られてるんだ。報復としては当然だろ?」


――その時、遠くの方で壁が壊れるような衝撃音が鳴った。


「なんだ!?」

「ボス! 日本の警察が建物に入って来ました!」

「ふざけやがって! おい、倉庫からライフルを持って来い!」


俺を甚振(いたぶ)っていた男はすぐに部屋を出ると乱暴にドアを閉めた。

外では激しい銃撃戦が行われているようで、流れ弾の何発かが壁を貫通して俺の頬を(かす)めた。


(……日本の警察だと?)


捕まったらここの連中よりタチが悪いため、俺は近くにいた見張りの男と交渉する。


「おいあんた、一緒に逃げようぜ! 日本人が隣にいると分かれば、ロシア人のあんたでも殺されずに済むぞ」

「……そ、それは本当か?」

「入って来たのは日本の警察だろ? 日本人には当然優しくするはずだからな」


……俺はそう言ったがもちろん嘘である。

今の日本の警察は犯罪者に対して1ミリも容赦(ようしゃ)がない。

動く者すべてを射殺する気で出動しているため、彼らの去った現場は無惨(むざん)な死体しか残らないという噂を聞いている。


「わ、分かった。ちょっと待て、縄を(ほど)いてやる」


見張りの男はしゃがんで足を縛っている縄を解こうとした。

しかしその時、壁を貫通した一発の銃弾がその男の脳天を撃ち抜き、頭から血を流して倒れてしまう。


「役に立たねぇ野郎だ!」


俺は焦りながら縄を解こうとしたが、よりキツく締まったようで手首や足首に痛みが走った。


(余計に解けなくなっちまった。年貢の納め時ってヤツか……)


しばらくすると部屋の外が急に静かになり、激しい銃撃の音がまったく聞こえなくなった。

煙幕弾(えんまくだん)でも投げ込まれたのか、ドアの隙間(すきま)から煙のようなものが漂い、それを吸い込んだ俺はゴホゴホと咳き込んだ。

その音を聞かれたのか、部屋のドアの手前で足音が鳴る。

そして蹴破(けやぶ)られたドアが開き、何人かのガスマスクを被る警察官が、いかつい銃を構えて俺のいる部屋へ入って来た。


「待て、撃つな!」


警察官の一人が周りにいる者に指示を出す。

……声の調子から女性らしく、警察部隊を率いているリーダーのようだ。


「穂積海斗だな」


リーダーと思われる女性警察官は俺に歩み寄り、縛っている縄をナイフで切り落とした。


「貴様を逮捕する。大人しく同行すれば危害を加えないから安心しろ」


……どうやら、俺の独り言もここまでらしい。

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