裏切り者
「が……ぐわあぁご……」
クライザーレは飛ばされた先の瓦礫の中から身を起こすと、ゆっくり立ち上がって海斗を睨み付けた。
「そうですか、それが貴殿の答えだと……この裏切り者め。では相応しい最期を与えてあげましょう!」
クライザーレの杖から強烈な光が放たれ、杖は無数の棘が備わる巨大な剣へと変化する。
そして剣を正眼に構えると、地面を蹴って凄まじい勢いで海斗との距離を詰めた。
だが、海斗は微動だにしない。
(今の攻撃で力を出し尽くしたみたいだな……貴殿の首を吹き飛ばしてやる)
クライザーレは横に切り払うカタチで海斗の首を切り落とそうとした。
しかし、首元に切っ先が届く瞬間、目の前にいた海斗の姿が消える。
「なにっ!?」
クライザーレは完全に海斗を見失う。
そして「ドン!」と背後から音がすると、クライザーレの背中に衝撃が走り、再び数メートルほど前方へ飛ばされて校舎の壁に激突した。
(な、なんだ……何が起こっている? 人の子の能力を遥かに超えているではないか)
自分には物理的な攻撃、すなわち打撃や刀による刺し傷、銃による射創などを受け付けない体のため、海斗の攻撃が何故効くのかクライザーレには理解できないでいた。
そして起き上がって海斗の姿を探すが、周囲を見渡してもまったく見つからない。
(……まさかっ!)
クライザーレは頭上に気配を感じたため空を見上げると、驚いたことに背中から翼の生えた海斗が飛翔していた。
翼は何枚も生えており、そのいくつかは折れているのが分かる。
「あ……あ……あ……その姿はっ! 何故この時代で貴殿の根源たる力が発動するのだ? 卑怯ではないかぁぁぁっ!」
だが海斗は反応を見せず、持っていた日本刀を横に振り払うと弧を描いたような光線が現れ、それをクライザーレに向かって飛ばす。
弧の光線はクライザーレの腰の辺りを通過すると、次の瞬間、上半身と下半身が真っ二つに分かれた。
「……がっ!」
上半身はコロコロと地面を転がり、やがて頭が上を向く状態で止まった。
クライザーレの口から大量の血が噴き出す。
そして空から舞い降りた海斗は、倒れているクライザーレにゆっくりと歩み寄った。
「き、貴殿は……それで良いのですか? このまま進み続けることに、なんら疑いはないと?」
クライザーレの問い掛けに、海斗は言葉を返さなかった。
海斗を見ると、まるで何かに取り憑かれたように虚空を見つめている。
その瞳は煌々と輝いており、しばらくすると瞳の輝きは時間の経過と共に失われて行った。
……そして瞳から光が消えた後、海斗は催眠術が解けたかのような態度を見せ、慌てて周囲を確認する。
「な、なんだ!? 何が起こったんだ? 俺はいった……」
そう言うや否や、海斗は激しく吐血すると共に、全身の血管が破裂したかと思わせるほど皮膚から大量の血が流れ出した。
着ている服がみるみる血に染まり、海斗は痛みで意識が飛びそうになる。
「どうやら身体が昔の力に耐えられなかったようですね……そうまでして私に勝ちたいと?」
「……し、知らないっ! 俺は何が起こったのか分からないんだ!」
「どちらにせよもう手遅れだ……私はもうすぐ消滅する」
クライザーレの頬に一筋の涙が伝う。
「ああ、貴殿の言ったことは正しかった。邪な感情を喰らい続けた成れの果てが、この醜い姿だ。この姿で最期を迎えるのが、ただただ悲しい。悲しい……悲しい」
「おまえは……善き者なのか?」
「いいえ、私は悪しき者。善き者なら貴殿の後ろにいます」
――その時、海斗の腹部に鈍い衝撃が走った。




