メモヴェルス再び
「あ、あれ……?」
海斗は銃弾の雨に撃たれたと思ったが、目の前の軍人たちはすでに消えていた。
(幻覚を見たのか? マズいぞ……有毒ガスが充満しているのかもしれない。すぐに外へ出ないと)
海斗が戻ろうとしたその時、近くの部屋から強い光が漏れていることに気が付いた。
その部屋はシャッターで閉められており、少し開いた隙間から光が漏れている。
(なんだろう……気になる光だ)
海斗はシャッターの隙間に手を入れ、そのまま上へ押し上げると簡単に開いた。
すると、部屋の中央に強い光を放つカードが一枚落ちており、海斗は引き寄せられるようにそのカードに手を伸ばす。
拾ってみるとカードが放つ光が消え、周囲は再び暗闇に包まれた。
「……うっ!」
海斗はしばらくカードを見ていたが、急に全身が燃えるように熱くなり、胸を押さえながらその場に倒れてしまう。
朦朧とした意識の中、霞んだ視界で周囲を見渡すと、目の前に日本刀とホルスターに収められたリボルバーが落ちていることに気が付いた。
「イーテルヴィータを確定しましたね。やはりメモヴェルスの光に引き寄せられましたか」
――突然、倒れている自分に話し掛ける男が現れたため、海斗は頭を二回ほど振って即座に立ち上がる。
そして背後にいる男を警戒しながら、前転して日本刀を掴み、袈裟切りして威嚇を試みた。
だが、その男は軽く杖を横に払い、日本刀による攻撃をいとも簡単に躱してしまう。
「おまえは誰だ! 俺を殺しに来た刺客の一人か?」
「ほう……すべてを思い出したようですね。話が早くて助かりますな」
「俺の質問に答えろ! 敵か味方か、どっちだ!」
「ご承知の通り刺客の一人で、名はクライザーレと申します」
そう言うと、クライザーレという名の男は深々と海斗に向かって頭を下げた。
クライザーレの姿は背中に翼のようなものが生えており、その羽の一枚一枚は蜂や蠅といった昆虫の羽を思い起こさせる。
「やはり刺客か……こんな地下まで追って来るとはご苦労なこった。そんなに俺を殺したいのかよ」
「心外ですな、我々は暗殺だけを手段としておりません。貴殿とは誤解なきよう、ゆっくりと話がしたい」
「……なんの話だ」
「取り引きしましょう。貴殿にとっては決してマイナスになるような話ではないはず」
クライザーレは持っていた杖の先でコツコツと地面を突いた。
「最初にお聞きしたい。貴殿は何故、このイーテルヴィータの道筋を歩むのですか?」
「それは……」
「人類の救済のため? それとも潜在的な行動によるものですか? いずれにせよ、動機にしてはちと頼りないですな。仁翔殿との約束も考えられますが、もとはと言えば突然の災難に巻き込まれたのは貴殿であり、その災難がなければ普通の学生生活を送っていたはずです」
「…………」
そう言われてしまうと海斗も言い返す自信がない。
自分がどうしてこんな状況に巻き込まれたのか、心の何処かで恨んでさえいるからだ。
「さて、本題に入りましょう。我々は貴殿に幸せな人生を与えることができます」
「幸せな人生……? 金持ちや有名人にでもしてくれるのかよ」
「あんな地位を欲しがる輩は卑しい小物です。本当の幸せは目立たず地道に働き、信頼できるパートナーを見つけ、安定した家庭を築いてこの世を去る者です。バランスの取れた波風の立たない人生こそが至高。それを我々は貴殿に用意致しましょう」
「退屈そうな人生だな、俺はそんなの望んでないぞ」
「……貴殿はその言葉を奈波様に正面から言えますか?」
海斗の眉がピクリと動く。
メモヴェルスの光に触れ22歳の記憶を取り戻したが、今の時代の記憶も残っているのだ。
……海斗は奈波のことを心の底から愛していた。
「貴殿が何故、246万回も転生を繰り返して失敗したか、その根底を理解していないようだ。もし善き者と悪しき者が実効支配している世界で死ぬことになれば、22歳からやり直しになるからです。貴殿が15歳だろうが0歳だろうが関係ありません。そんな無限地獄を味わいたいのですか?」
「だけど幸せな人生でも失敗に入るだろ? 寿命を迎えると、また22歳からのスタートになる」
「その時は、再び我々の取り引きに応じれば良いだけの話」
クライザーレはニヤリと微笑んだ。
「貴殿にとって不利な条件ではないはず。しばらく時間を与えますので、よくよくお考えください。ただ……」
「ただ……?」
「こちらも交渉を有利に進めたいので、あなたの大切な恋人を預からせて貰いますよ」
「……なにっ!?」
海斗はクライザーレを捕まえようとしたが、すでに霧の中へと消えてしまった。




