目覚め、そして日常
「うわっ! う、う、撃たれた!」
飛び起きた海斗はすぐに撃たれた自分の体を確かめた。
だが銃で撃たれたような傷跡はなく、血だらけになっている様子もない。
どうやら寝惚ていたらしく、夢の中での出来事だったようだ。
「どうしたの~?」
台所で朝食を用意していた海斗の彼女が、心配そうに声を掛けた。
「い、いや……なんでもない。夢だよ夢。悪夢ってやつ」
「急に大きな声を出さないでよね、こっちがビックリするから」
「なんか生々しい夢だったな、痛みが体に残ってるみたいだ」
「どんな夢なの?」
「兵隊に一斉に撃たれる夢」
「……映画の観過ぎだね」
海斗の彼女は呆れたように笑った。
彼女と同棲して一ヶ月になるが、この日常にもお互い馴染みつつあり、夫婦同然の生活になっている。
「こんな彼氏だと毎朝うるさいから、私もアパート探そうかな」
「都会だとアパート借りるのもお金が掛かるだろ。一緒に生活した方がコスパ良くないか?」
「私が出て行ったら寂しい?」
「うん……まあ……」
「正直だね~」
海斗の彼女はフフフと含み笑いをした。
……自分には不釣り合いなくらい自慢の彼女だと海斗は思う。
彼女とはエレメンタリー・スクールの時に知り合い、オルベニア・ユニバーシティーの分校に入学した今も関係は続いていた。
「今年で卒業はできそう?」
「う~ん、難しいかもなぁ。単位をいくつか落としちゃったし、来年になると思う」
「学んだ経営学が生きるといいね」
「その点は任せてよ。日本は5年前に独立したし、政治家にも日本人が増えてるから、俺たち若者がこれからの社会を作るのさ。来年は必ず起業するから期待してくれ」
「へえ~お金持ちになるかも」
「その時は君と……」
そう言うと海斗は言葉に詰まった。
「君と……何?」
「い、いや、なんでもない。それより、今日は友達と久しぶりに遊ぶ予定だったよな。確かボーリング場で待ち合わせだっけ?」
「うん、確かそうだよ」
「じゃあ着替えないとね。永井のヤツ、けっこうボーリングが上手いから、先に行って練習しておかないと」
海斗は朝食を口に詰め込むと、慌ただしく立ち上がってワードローブのある部屋に向かう。
……彼女にプロポーズするのは一人前になってからだ。
そんなことを考えながら、海斗は出掛ける準備を始めた。
――そして2時間後。
海斗とその彼女はボーリング場を訪れ、カウンターで手続きを行っていた。
「ではここにお二人の名前をご記入ください」
店員は一枚の紙を差し出して、プレイヤーの名前を記入するようお願いする。
「これって俺と君の名前を書いてもいいかな?」
「うん、別にいいよ~。平仮名にしておいてね」
「じゃあそうしよう」
海斗は紙に1人目の名前である「かいと」と記入した。
そして2人目の名前も下に記入する。
……その名前は「ななみ」であった。




