22歳の終わり
(しくじった……どういう意味だ?)
海斗はワケが分からず、死体となったオロチをしばらく見ていた。
……だが、やることは他にもある。
すぐに頭を切り替え、隣の倉庫で囚われている仁翔の救出へ海斗は向かった。
(お師匠……無事でいてくれ)
海斗は倉庫の扉を開けると、中で待ち構えていた軍人たちの一斉射撃により、凄まじい銃弾が雨あられと飛んで来た。
「穂積海斗、このテロリストめ! ここで貴様を抹殺する!」
軍人の一人が海斗を脅す。
「なんで俺がテロリストなんだ? おまえたちには関係ないだろ!」
「黙れ、国家の害虫め! 我らの首長が貴様をテロリストだと指名手配したのだ。この国の平和のため、そして正義のために死んでもらうぞ!」
無茶苦茶な話だと海斗は思ったが、どうやら相手は完全な洗脳状態にあるらしく、こちらの立場を説明しても通じるとは思えない。
海斗は銃弾が当たらぬよう、倉庫に置かれた資材に身を隠しながら、少しずつ前へと進んだ。
そして、銃を構える軍人たちとジリジリ距離を詰め、日本刀を引き抜いて資材の陰から飛び出した。
「……なっ!」
虚を突かれた軍人たちは銃を乱射したが、銃弾は海斗の頬を掠めただけで、3つほどの首が宙を舞ってボトボトと地面に落ちた。
(……殺したくはないが仕方ない)
海斗は血の付着した日本刀を振り払うと、倉庫の奥へとさらに進む。
どうやら激しい抵抗はここまでらしく、後は一人の軍人が仁翔の監視役として残っているだけだった。
「と、止まれ!」
残った軍人はライフルを構えてこちらを威嚇したが、海斗は資材に身を隠しながら、その男との距離を詰める。
「くそっ! 今、このシェルターを占拠している味方を全員呼んだからな! もうじきここへ来るぞ、貴様も一巻の終わりだ!」
だが次の瞬間、海斗は資材の置かれた倉庫棚から飛び下りて、軍人の首の付け根に日本刀を突き刺した。
「喋り過ぎて位置がモロバレだ。俺に脅しは効かない」
軍人は口から血を噴き出しながら地面に倒れ、そのまま絶命した。
「お師匠!」
海斗は倉庫の奥にある管理室のドアを開けようとする。
しかし鍵が掛かっているため、止むを得ずドアを蹴り飛ばして中へ入った。
(頼む……)
……だが海斗の願いも虚しく、仁翔の姿は惨憺たるものだった。
両腕を切り落とされ、目玉を抉り取られている。
「うわあああぁぁぁ! お師匠―――!」
海斗は大粒の涙を流しながら仁翔を縛っている縄を解く。
「おお……海斗……か」
「すいませんすいません! 俺が不甲斐ないばっかりに、助けるのが遅れました」
「……そう泣くな、儂のことはもういい」
「いいえ必ず助けます! 肩を貸しますからここから脱出しましょう」
「オロチは……オロチはどうした?」
海斗はオロチのことを訊かれると、少しだけ言葉に詰まった。
「あいつは……死にました」
「そうか……無念じゃ。あ奴は身体を乗っ取られてしまったからの」
「……えっ!」
その時、海斗はオロチが残した「しくじった」の言葉の意味を悟った。
「海斗よ……儂はもう助からん。最後におまえに伝えておきたいことがある」
「…………」
「おまえの行き先は、想像を絶するほどの残酷な世界が待っている。だが巨大な壁が前を塞いでも決して振り返るなよ。儂の死を悲しむ必要もない。おまえの未来……おまえのイーテルヴィータを信じて前を向け。後は……頼んだぞ」
――そう言うと仁翔はゆっくりと頭を下に向け、そのまま息が絶えてしまった。
「お師匠……? お師匠っ!」
海斗は何度も仁翔に話し掛けたが、二度と息を吹き返すことはなかった。
絶望のあまり、海斗はその場で泣き崩れてしまう。
(うう……しっかりするんだ。お師匠は前を向けと言っていただろ! 俺にはまだやることが残っている)
海斗は服の袖で涙を拭い、落ちていた日本刀を手に取って強く握り締めた。
そして隣の武器庫へ再び戻ると、ドアの脇にあるボタンを押して入り口のシャッターを閉じた。
「メモヴェルスよ、この世界に潜む異物を暴き出せ!」
海斗はメモヴェルスのカードを取り出し頭上に掲げると、一筋の光が壁を這い回る昆虫のようなものを指し示した。
その昆虫はムカデのような姿をしており、先端には人間の目玉のようなものが生えている。
目玉はクイとこちらを振り向き、メモヴェルスの光から逃れようとした。
それを見た海斗は
すべてを悟り
湧き上がる凄まじい怒りで
顔を赤く染めた
「てめぇが善き者の刺客かあああぁぁぁ!!!」
海斗は日本刀でムカデを切り落とし、先端に生えている目玉をリボルバーで何度も撃った。
……恐らく外で浮かんでいる巨大な目玉はダミーなのだろう。
こちらのムカデが本体であり、幻異界の核から送られた善き者の刺客だと思われた。
そしてすべてが終わると、目玉の肉片はそこら中に飛び散り、すでにムカデの原型は影も形もなくなっていた。
海斗は荒くなった息を整えながら、ゆっくりとリボルバーをホルスターに収める。
ドォォォン!
その時、シャッターの向こう側から大きな音が聞こえた。
恐らくシェルターを占拠している全部隊がここに集まり、突入を開始したのだと思われる。
海斗は覚悟を決め、武器庫に入って来る敵に備えてライフルを構えた。
――だが、数の差は歴然である。
突入された瞬間に海斗は集中砲火を浴び、銃弾が全身を貫いた。




