安い悪役
階段を上ってシェルターのメインルームに繋がる通路へ出ると、案の定何人かの兵隊が待ち構えており、海斗を見つけると一斉に銃を撃ち始めた。
(このまま進めばハチの巣にされるな……他の通路を使うか)
シェルターは敵に侵入された時を想定し、メインルームに向かう通路をいくつかに分けている。
中には海斗しか知らない通路もあるため、そこから行くのが無難だと思われた。
海斗は来た道を引き返し、階段の途中にある隠しパネルの蓋を開けてボタンを押す。
すると天井から梯子が現れたため、海斗はそれを使って天井裏まで上り、自身の知る隠し通路へと向かった。
(これだとメインルームへ行くのは避けた方が良さそうだな……あそこは守りを固めるには最適な場所だ。まずはお師匠を助けることに集中しないと)
海斗は隠し通路にある部屋のドアを開けて中に入ると、そこには何台かの監視モニターが設置されており、シェルター内部の状況が映し出されていた。
人感センサーで兵隊の数を調べると、およそ50人ほどがシェルターを占拠していると出力された。
(えらく多いな。これほどの人数を従えるとか、オロチはいつから善き者と繋がりがあったんだ? 悪しき者が生きていた時は、そんな素振りすら見せなかったのに)
……悪く考えれば完全に騙されていたとも言える。
だが悩んでも仕方のない話なので、まず仁翔が何処にいるのか調べる必要があった。
(……あっ、いた! 武器庫の隣にある倉庫に囚われているみたいだ)
モニターを確認すると、仁翔は何人かの軍人に囲まれて身動きが取れなくなっている。
一人の男が時々銃身で殴ることもあるため、おそらくかなり酷い拷問を受けた後なのかもしれない。
(くそっ、早く行かないとお師匠が死んでしまう! 武器庫ならダクトから行けるな。おそらくオロチもそこにいるだろうから、ついでにあの世へ送ってやる)
海斗は部屋を出て外にあるダクトへ入り、匍匐して武器庫へと向かった。
狭いダクトの中を前進してメインルームの階下にある武器庫まで辿り着くと、息を殺しながら通路の床へ着地し、鞘から日本刀を引き抜いた。
……ここにいる兵隊の数はおよそ7人ほどである。
海斗は武器庫のドアノブに手を掛けると、静かにドアを開けて中に入った。
今まで何事もなかったためか、中にいる軍人たちは完全に油断しており、背後から近付く海斗の存在に気が付く様子もなかった。
そして一筋の光が走ると、何人かの軍人の首が飛んで宙を舞う。
(……まずは2人)
海斗は日本刀に付着した血を振り払うと、奥の部屋にいるオロチと軍人2名の前に姿を現す。
「げぇっ! か、海斗!」
突然、目の前に海斗が現れたため、場の動揺がこちらにも伝わって来た。
その隙を逃がさず、海斗は前跳びで軍人との距離を詰め、日本刀を横薙ぎして2名の首を一瞬で切り落とした。
そして海斗は日本刀の切っ先をオロチの喉元に向ける。
「ままま、待てよ海斗! 俺たちは仲間だったろ、殺す必要なんてあるか?」
「言い訳はそれだけか? 呆れたもんだな」
「頼むよ、殺さないでくれ! 仁翔だってくれてやるから!」
オロチは地面に頭を擦り付けて土下座する。
海斗は自分でも甘いと思ったが、オロチを殺す気にはなれず日本刀を鞘に収めた。
「おまえと話すことはもうない。二度と顔を見せるなよ」
海斗はオロチに背を向け、仁翔が囚われている倉庫へ向かおうとした。
――その時、撃鉄を引くような音が聞こえ、海斗はその場で立ち止まる。
(……やはり安い悪役なんてこんなものか)
海斗は振り向き様に日本刀を抜き、後ろで銃を構えていたオロチの腕を切り落とした。
「ぎえええぇぇぇ!」
オロチは激痛で叫び声を上げながらその場に倒れた。
海斗は苦しんでいるオロチに近付き、再び喉元に日本刀の切っ先を向ける。
「言い残すことはないな。自業自得だと思い知れ」
海斗が首を切り落とそうとしたその時、オロチの左目がおかしな挙動を見せ、グリグリと動いて頭蓋骨の中で暴れ出した。
「ギイイイィィィ―――!!!」
海斗は何が起こったのか分からず、叫びながら痙攣するオロチを見ていたが、しばらくすると動きが止まり辺りが静かになった。
「……どうなってるんだ?」
恐る恐る海斗はオロチに近付くと、どうやら僅かに息はあるらしく気絶している様子だった。
「おい、どうした? 起きろ!」
海斗が話し掛けると意識を取り戻したのか、オロチは薄く目を開けてこちらを見る。
「……す、すまねぇ旦那……しくじっちまった」
オロチはそう言うと口から大量の血を吐き出し、そのまま崩れ落ちるように絶命した。
(……え?)
海斗はオロチが残した言葉に動揺すると、すぐに抱き上げ何度も名前を呼んだが、願いも空しく目覚める様子はなかった。




