積年の恨み
「う~む、ここはもう駄目かもしれんな」
仁翔は煙草の火を消して、刀を仕込んだ杖を手に取る。
「海斗! あの娘の安全を確保するため、エレベーターが生きている内に第三シェルターへ戻れ。ここは儂らで敵の動きを抑える」
「えっ……オロチと二人でですか? 無茶だ!」
「こんなこともあろうかと、ここにいる従業員には銃器の扱いを教えておる。少しではあるが時間稼ぎにはなるじゃろ。第三シェルターへ着いたら下にある機能停止ボタンを押してエレベーターを動かくなくしろ」
「……分かりました。ご武運を」
海斗はすぐにエレベーターのボタンを押して中へ乗り込んだ。
恐らく車で逃げている時にシェルターの位置がバレたのかもしれない。
そうだとしたら……第三シェルターが最も危険だ。
(くそっ! まさかここまで侵入するとは思ってもみなかった)
――そしてエレベーターが第三シェルターへ到着すると、海斗はパネルの下にあった「機能停止」と書かれた蓋を開けて、中にあった赤いボタンを押す。
海斗はエレベータを出た後、銃を構えながら周囲の様子を伺う。
第一シェルターとは対照的に、敵が侵入した形跡はなく至って静かである。
海斗はすぐに医務室へ向かうと、デスクに向かってパソコンに入力している女性医師に話し掛けた。
「……ここは大丈夫ですか?」
「えっ、何がですか?」
「第一シェルターが敵の攻撃を受けました。ただちに避難してください」
「本当ですか!? 分かりました、すぐに準備します」
女性医師はパソコンの電源を落とすと、ロッカーの中にある荷物を取り出し避難の準備を始めた。
「七奈美さんは何処にいますか?」
「この通路の先にある部屋で休んでいます。今は寝ていると思いますけど」
海斗は通路の先にある患者用の部屋へ向かい、ドアを開けて中にいる七奈美の安否を確認する。
七奈美はベッドで目を閉じて眠っており、顔色が少しだけ良くなっているように思えた。
(寝ているところ悪いけど、また背負って避難するしかなさそうだ)
海斗は七奈美を抱き上げ、背中に背負ってすぐに部屋を出た。
(おかしい……車で逃げた先を特定されたなら、襲われるのは真っ先にここのはずだ。敵の目標は第一シェルターだったのか?)
もしそうだとしたら、海斗は見事に敵の罠に嵌まったと言える。
(くそっ! エレベーターは止まっているし、今さら第一シェルターへ戻れない。まずはここの二人を無事に避難させることに集中しよう)
海斗は女性医師のいた部屋へ戻ると、他に安全な場所があるか尋ねる。
「ここ以外に安全な場所ってありますか?」
「緊急事態があった時に各シェルターから通知が来るんですが、第二シェルターからなんの連絡もないので、恐らくそこが安全ではないかと……」
「えっ、第一シェルターが襲われたのに緊急の通知がなかったんですか?」
「ええ……奇妙な話ですが……」
――すると近くにあったモニターとマイクに電源が入り、一人の男が画面に映し出された。
その男とは……オロチである。
オロチはモニターを通して海斗に語り掛けた。
「ヒャハハハ! 海斗さんよ~、見事に騙されたみたいだなぁ」
「オロチか? おまえまさか……」
「そのまさかってやつさ。仁翔のジジイを人質に取ったぜ、助けたいなら一人で第一シェルターへ来な!」
「……何故裏切ったんだ? 仲間だと思ってたのに」
「もともと裏切ったのはそっちだろうがぁぁぁ! 積年の恨みを晴らさせてもらうぞ、てめぇのイーテルヴィータをぶっ壊してやる!」
……俺が裏切っただって?
オロチの言っている意味がよく分からず、海斗は戸惑うばかりだった。
「なんだぁ? 俺は知らないって面してやがるな。詳しい事情ならその背負ってる七奈美とやらに聞いてみろよ。そいつは俺よりもおまえを恨んでると思うけどな!」
「……え?」
「ヒャハハハ! この世界はいいぜぇ~、凄くいい! 俺の武器が飛ぶように売れるだろうからなぁ。おまえを追って来た甲斐もあったってもんだぜ」
「うるさい黙れ! お師匠を返せよ! 」
「返して欲しければ第一シェルターまで来るんだな。もっとも、エレベーターが止まって来ることができないんだろ? そのエレベーターは横移動するし、第一シェルターの正確な場所が分からないだろうから、何処にあるか地図で教えてやるぜ」
モニターに地図が映し出され、第一シェルターがある場所に印が浮かび上がる。
「地上から行けっていうことか……」
「そうだそうだその通り! だから俺の優秀な武器を渡してやったんだよ。さ~て、銃弾の雨の中をくぐり抜け、無事に第一シェルターへ来ることができるかなぁ海斗くん」
オロチは愉快そうに笑い声を上げ海斗を挑発する。
「すいません、七奈美さんをお願いします。恐らく第三シェルターには追手が来ないと思いますので」
海斗は背負っていた七奈美を椅子に下ろす。
そして女性医師に背を向け、地上へ向かうドアのノブに手を掛けた。




