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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第一章 穂積海斗 22歳
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失楽園

下水道は想像していた通りの悪臭が立ち込めており、海斗は歩いているだけで気分が悪くなりそうだった。

そんな時、後ろを歩いていた七奈美の足が止まってしまう。


「……どうした?」

「いや、なんでもない」

「顔が真っ青だよ、この臭いで気持ち悪くなったのか?」

「どうやら体力の……消耗が……思ったより激しいみたい……」


すると七奈美は膝から崩れ落ちてその場に倒れる。

慌てて海斗は七奈美を抱き起こすと、服が大量の汗で濡れていることに気が付く。


(こいつは大変だ……この辺りで地上に出よう)


海斗は七奈美を背負い、下水道の出口に向かって歩き出す。

ちょうど数メートル進んだ先にマンホールがあったため、梯子(はしご)を登ってそこから地上へ出た。

周囲を見渡すと軍の関係者が歩いている様子もなく、海斗は安心して七奈美をベンチに寝かせた。


(いずれここも見つかるだろうな……とは言え、七奈美さんを背負って文京区まで安全に行けるだろうか?)


海斗はこの辺りの地図を把握(はあく)していない。

……自分が何処にいるかも分からないのだ。

標識を見ると番号しか書いておらず、道にある観光用の地図さえ存在しなかった。

恐らく敵軍に情報を与えないための措置だと思われる。


(仕方ない、(かん)で動くしかなさそうだ。お師匠と連絡を取りながら進んでみるか)


――その時、猛スピードで迫って来る車が現れた。

海斗は身構え戦闘態勢に入るが、運転席の窓から顔を出したのはオロチだった。


旦那(だんな)! 早くこいつに乗ってください!」

「……オロチか? どうしてここに?」

「さっさと乗らんか! こっちはヒーヒー言いながらここまで来たんじゃぞ!」


助手席には仁翔が乗っており、海斗に早く車へ乗るよう急かした。

海斗は慌てて七奈美を(かつ)ぎ上げ、後部席に二人で乗り込む。


「ちと粗い運転になるかもしれやせんが、我慢してくださいねお二人さん」


オロチは思い切りアクセルを踏むと、来た道を引き返して幹線道路に入り、時速150kmで駆け抜けた。

当然、軍の車両が行く手を(さえぎ)るが、オロチは絶妙なドライブテクニックで追手を()く。


「着きやした、旧後楽球陣城塞です!」

「地上は軍に占拠(せんきょ)されておる。気が付かれずに裏のゲートから地下駐車場に入るんじゃ。後は(わし)がシェルターまで案内しよう」


オロチは裏のゲートに進み、地下駐車場に車を停めた。

海斗は気を失っている七奈美を背負い、仁翔とオロチの後を追う。


「その娘は気を失っておるのか? どうせおまえさんが無茶な要求をしたんじゃろ」

「過去を少しだけ変えてもらいましたけど……マズかったですか?」

「どう変えたんじゃ?」

「5人の軍人の過去を書き換えました」

「う~む、生身の人間が1人の過去を書き換えるだけで寿命が3年縮むと言われておるからな。すぐに医務室へ行くんじゃぞ。場合によっては命が危ないかもしれん」


海斗は仁翔の説明を聞いて言葉を失った。

そして仁翔は地下駐車場にあった事務所に入ると、並べられたロッカーの1つを開け、中に備え付けられた小さなレバーを操作する。

ゴゴゴと音がすると、床の一部が動いて隠し通路のようなものが現れた。


「ここからシェルターへ向かうぞ。付いて来なさい」


仁翔たちは隠し通路からさらに地下へと向かい、大型の扉の電子パネル前で顔認証、虹彩(こうさい)認証、指紋認証、声紋(せいもん)認証を済ませて中へ入った。


「ここはな、おまえさんがいつも利用する第一シェルターから少し離れた場所にある第三シェルターじゃ。緊急用の医務室があるから、そこへこの娘を運ぶんじゃ」

「……分かりました」


海斗は七奈美を背負いながら、第三シェルター内にある医務室を目指す。

緊急用と呼ばれるためか、通路を少し歩いただけで見つかった。

医務室の中へ入ると、そこには1人の女性医師が待機しており、七奈美を見るとすぐに診察を始めた。


「……命に別状はなさそうだけど、詳しい検査が必要みたいね。レントゲンやCT検査を行うから、後は任せてちょうだい」

「そうですか……良かった」


海斗はその言葉を聞いて少しだけ安心した。

そして医務室を出て第三シェルターにある大型エレベーターに乗ると、第一シェルターへ向かう操作パネルのボタンを押した。


「どうじゃった?」


第一シェルターの入り口前で仁翔が待っており、海斗に七奈美の容態を尋ねた。


「……命に別状はないみたいです。まだ検査の途中なので詳しいことは分からないですけど」

「幻異界の核からやって来た思念体じゃ、まだ娘の身体に馴染(なじ)んでおらんのじゃろう。まったく、無理させおってからに」

「幻異界の核って……それは20年以上前に存在する世界のことですか?」

「そんなところじゃ」

「あの……前から聞きたかったんですが、どうして俺はその時代に戻る必要があるんですか? こんな異常な状況になったから今まで黙ってたけど、やっぱり理由を知っておきたいです」

「ふむ……」


仁翔は海斗に背を向けてしばらく黙ってしまった。

……そして長い沈黙の後、仁翔は再び海斗と向き合い、閉ざしていた口を開いた。


「良い頃合いじゃな、そろそろ本当のことを話しておこう。おまえさんはミルトンの『失楽園』という作品を読んだことはあるか?」


いきなり文学作品を読んだかと質問されたため、海斗は少しだけ戸惑ったが、その作品の名前なら聞いたことがある。

前にRPGゲームを遊んでいた時、海外の神話に興味が出たため、関連する書籍を読み(あさ)った時期があった。

中二病と言ってしまえばそれまでだが、天使と悪魔との争いにやたら詳しくなってしまい、その流れで『失楽園』を手に取って読んだ過去がある。


「ええ、知ってます。確か天使と悪魔の戦いを描いた作品ですよね?」

「……あの主人公のモデルはおまえじゃ、海斗よ」

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