旧神楽坂駅周辺
市街地を車で走ると、建物の多くが爆撃を受けたのか深い傷跡が残っている。
自分が見慣れた光景とはかけ離れており、海斗は街の景色が通り過ぎる度に陰鬱な気持ちになった。
「これが今の東京……」
「かろうじて『東京』という名前は残っているけど、地名のほとんどは改名されているか番号制になっている。ここは神楽坂駅周辺だと思われるが、現在はメトロ東西線85番地区と呼ばれているな」
――そんな話をしていると前方に何台かの戦車が現れ、こちらに向かって迫って来た。
「マズイな……」
「どうする七奈美さん?」
「引き返して奴らが通り過ぎるまで待とう。無用な戦闘は避けたい」
だがそんな願いも空しく、戦車はこちらへ向かって砲撃した。
「くそっ、見つかったか! 仕方ない、バックして逃げるぞ」
七奈美はバックしながら車を180度回転させ、思い切りアクセルを踏んだ。
少し気付くのが遅れていたら、戦車の砲弾がこの車に届いていたかもしれない。
「……砲弾は避けましたが、何台かの車が後ろから追って来ますね」
「カーチェイスでもやる気か? 私はそれほど運転が得意ではないぞ」
七奈美は愚痴を言いながらハンドルを切り、主要道路を避けて左の脇道へと入った。
「こんな道に入って大丈夫ですか七奈美さん?」
「大丈夫だ、この辺りの地図なら頭に入っている。軍部に所属する人間になると、都市部の地図を覚えるのは必須だからな」
「……軍部に所属って?」
「この体の娘の話だ。貴様と出会う前は軍人の一人として参戦していたらしい」
そして脇道を進むと別の主要道路に出た。
しかし相手が悪かったのか、行き先を何台かの車で封鎖しており、すでにアサルトライフルを手に持って待ち構えている者が数十人いる。
「待ち伏せされたな……」
「あの……人を殺してもメモヴェルスの力でなんとかなるんですよね?」
「何が言いたい?」
「背に腹は代えられないってやつですよ」
海斗はドアを開け、車から外へ出た。
海斗が両手を上げたため、先頭でライフルを構えていた軍人二人はこちらに歩み寄って来る。
遮蔽物からその軍人が出たことを確認した海斗は、リボルバーをホルスターから取り出して二人を一瞬で射殺した。
「敵の発砲を確認!」
「総員、一斉に射撃せよ!」
先頭の二人が倒れたのを確認すると、後方の車両で身を隠していた軍人たちが、一斉に海斗へ向かってライフルの弾を浴びせた。
海斗は飛び交う銃弾をかわし、建物の壁に前転しながら隠れる。
射殺した軍人のアサルトライフルを奪った海斗は、マガジンを取り出して弾の残数を確認した。
(前方に三人、右側建物のエントランスから狙う男が二人、それから非常階段で上から銃を構える奴もいたな……)
海斗はライフルにマガジンを装着し、壁の端から顔を出して前方の三人を撃った。
パン、パン、パパンと音が鳴ると、前方で銃を撃っていた三人の軍人は、海斗のアサルトライフルで頭を貫かれて絶命する。
あまりの射撃精度に、エントランスで銃を構えていた男二人に混乱が生まれ、その隙を見逃さずに海斗は壁から飛び出し、非常階段で待ち構えていた男を射殺した。
(あ……エントランスの二人は移動したな)
……どうやら一時退却したらしい。
海斗は七奈美の運転する車に戻り、射殺した人数を報告する。
「5人ほど殺しちゃいましたけど、ちゃんと生き返るんですよね?」
「少し待て、今やってる……終わったぞ」
体から微量な光が発せられ、七奈美は閉じていた瞼を開けた。
海斗は窓から外を見ると、すでに5人の死体が消えていた。
「5人も過去を書き換えるのは手間が掛かるんだ。それに体力の消耗も激しくなる。今度は事前に相談してくれ」
「相談する時間もないような気が……また人数を増やしてこちらへ迫って来たみたいですよ」
100mほど道路の先を見ると、先ほど退却した二人が仲間を引き連れてこちらへ向かっている。
「仕方がない、車を捨てて下水へ逃げよう」
「うえ……エグいわ」
車から降りた海斗と七奈美は、近くにあったマンホールの蓋を開けて地下の下水道に向かった。




