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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第一章 穂積海斗 22歳
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正しさを疑わない世界

「なんだ……?」


海斗はホールの窓から外の様子を見ると、何台かの戦車が遠くのビルを砲撃(ほうげき)し、その戦車を盾に身を伏せている軍服を着た男たちも、同じ方向に向かって銃撃戦を繰り広げていた。


「どうなってんだ!? 一体外で何が起こってる?」


海斗は外が危険だと悟ると、新宿スカイアレシアの表口から出ようとせずに、裏の階下にある地下鉄駅入り口へと向かった。

爆撃の音は絶えず鳴り響いており、地下鉄への通路も瓦礫(がれき)(ふさ)がれてしまう可能性がある。

……恐らくこの様子だと地下鉄も動いていないだろう。

この場から避難するため、海斗は線路伝いに他の駅へ逃げることを考えていた。


「君! 何処へ行くんだ?」


突然、海斗は背後から声を掛けられ驚いて立ち止まる。

見ると軍人と思われる男二人が、銃を構えてこちらを警戒(けいかい)していた。


「どうした? 何故軍服を着ていない?」

「怪しい男だ、捕まえろ!」


軍人の二人組は海斗を捕まえようと迫って来た。

海斗は身を(ひるがえ)して通路の奥へ進もうとすると、後ろから激しい銃撃音が鳴り響く。


(嘘だろ……民間人を撃つのかよ)


海斗は銃弾の雨を避けながら、新宿スカイアレシア前駅のホームへ辿り着く。

周囲を見渡すと人っ子一人おらず、当然ながら地下鉄も動いていなかった。

海斗は急いで線路へ下りて、自分の足で次の駅へと向かった。


(さっきの軍人は()いたようだな、危うく撃たれるところだった)


……そう安心したのも(つか)の間、前方からライトを照らしながら歩いて来る者が現れた。

海斗は慌てて暗闇に身を隠してやり過ごそうとしたが、何故かその人物は海斗の前で立ち止まった。


「……おい、隠れても無駄だぞ、メモヴェルスの輝きで丸見えだからな」


声の高さで海斗は女性だと分かると、恐る恐る壁の端から顔を出した。


「あんた誰?」

「貴様、悪しき者を倒した後にどうなるか聞いてなかったのか? 準備不足は命取りになるぞ」

「き、貴様……? あんたと俺って初対面だよな、呼び方どんだけ馴れ馴れしいんだよ」

「いや、初対面ではないぞ。ああそうか、七奈美と言えば伝わるのか?」

「ええっ!? 七奈美さん? 顔が前と違うんだけど」


共通しているのは美人というだけで、前に現れた七奈美とは似ても似つかなかった。


「現実世界……すなわち『現界』で私とシンクロする体を探すのは骨が折れるからな。顔が似てなくても仕方がないんだ」

「あんたが七奈美さんだという証拠は?」

「知れたこと、私はメモヴェルスの力に触れている。貴様が懐に忍ばせても、その輝きは遠くからでも視認(しにん)できるぞ」

「……そうか、じゃあ味方だと信じて良さそうだな」


海斗はイヤホンマイクを通して仁翔とコンタクトを取る。


「お師匠、新宿スカイアレシアからの撤退(てったい)に成功。それに……七奈美さんと再び遭遇(そうぐう)しました」

「七奈美……誰じゃ?」

「俺にメモヴェルスのカードを渡してくれた人です」

「ああ、幻異界の核より放たれた思念体(しねんたい)の一人じゃな。そいつは実体を持っておらんから、前の女性と違って驚いたじゃろ?」

「……その通りですね」


海斗はもう一度、七奈美の顔をまじまじと見つめた。

七奈美は「フン」と鼻を鳴らし、海斗から顔を背ける。


「性格の悪さは前と変わってないみたいですが」

「変わるのは実体だけじゃ、性格は変わらん」

「……おい、聞こえているぞ。貴様だって失礼なこと言ってるだろ」


七奈美は苛立(いらだ)たし気に海斗へ文句を言う。


「とりあえず七奈美さんを連れてシェルターに戻ります。ただ無事に帰れるか分からないですけど」

「やれやれ、善き者が現実世界の過去を書き換えるとこうなるんじゃ。正しさを疑わない世界というやつじゃな」

「正しさを疑わない世界……?」

「おい、グダグダ言ってないで早急にこの場を去るぞ。ここもまだ安全ではないからな」


七奈美は海斗に背を向けて次の駅へ向かった歩き出した。

海斗は通信を切ると慌てて七奈美の後を追う。


「先に言っておくが、貴様の過ごした東京はもう存在しない。新宿区や港区などの名称も使われていないし、すでに番号制になっている。今の東京は巨大な軍事拠点と化したんだ」

「どうしてそんな……」

「貴様が悪しき者を倒したからな。ミゼラムのような小者でも、ちゃんと役割があるんだよ。それは過去に住まう悪しき者たちとの連絡役だ。ミゼラムが倒され、奴らはこの時代における実効支配を同時に失ったんだ。よって今の時代は善き者たちの独占状態となり、奴らの都合で過去が書き換えられている。私は書き換わるタイミングでこの体を借りたのさ」

「何故このタイミングで?」

「過去が書き換えられると日本の地形すら大きく変わる。今の東京の地図を熟知している者が必要だろ?」

「……それはまあ確かに」

「じゃあ付いて来い。私が旧後楽(こうらく)球陣城塞(きゅうじんじょうさい)へと案内するから」

「そんなこと言って、また体から湯気が出て消えちゃう可能性もあるんでしょ?」

「いや、大丈夫だ。悪しき者が倒され、この世界は大きくバランスを崩している。善き者も辻褄(つじつま)合わせに必死だから、私に構っている余裕なんてない。奴らが最も恐れるのは、貴様がメモヴェルスの力に触れる瞬間だけだ。それはもう済んでいる」


七奈美は地下鉄の線路伝いに歩いていると、途中に管理施設へ抜けるドアを見つけた。


「ここから地上に出よう。銃弾が雨あられと飛んで来るかもしれないが撃たれるなよ」

「冗談キツイぜ……」

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