ジャガン
ヴェノーニャはケラケラと高笑いする。
「な~にを寝惚けたこと言ってんの? あんたもこっち側の存在なのに、人の子に肩入れするとか頭おかしいんじゃない? 気が狂ってるとしか思えないのよ」
「うるせぇ! つべこべ言わずに掛かって来やがれ!」
ラファエルの言葉に苛立ったのか、ヴェノーニャは激しく槍を振り回しながら襲い掛かって来る。
そして初撃をラファエルは剣で弾くと、そのまま縦に斬り下ろしてヴェノーニャの頭をカチ割ろうとした。
だが即座に反応したヴェノーニャは、槍の柄で攻撃を受け止め、ラファエルと間近で睨み合う。
「ふ~ん、まだまだ力は有り余ってるみたいじゃない。ちょっと予想が外れたみたいね」
「当然だ。このまま刺身にしてやるぜ」
「じゃあこれは避けれるかしら?」
すると、ラファエルの目の前が急に暗くなり、頭上から巨大な触手が落ちて来ることに気が付いた。
ラファエルは鍔迫り合いを解くと、横跳びして触手の強襲から辛うじて逃れる。
「……ジャガンだ!」
ロハンがラファエルに向かって叫んだ。
ラファエルが顔を上げると、山のような大きさの原生種がこちらを睨んでおり、その背中には小さい少女が立っているのが見える。
「なんだ……あいつは?」
その少女は大きくジャンプし、ロハンとラファエルの前に舞い降りた。
「ちょっとぉ、ヴェノーニャのお姉ちゃん。こんな雑魚たちに苦戦してちゃダメだよぉ」
「うるさいね! あんたも戦ってみな、このマッチョはけっこう強いんだから」
少女とヴェノーニャが親しそうに会話しているため、ラファエルは訝し気に二人を見る。
「おい、あの原生種まで呼んで何をしようって腹積もりだ? まさか俺たちと戦わせる気じゃないだろうな?」
「もっちろん戦ってよ! 二人にはジャガンちゃんの餌になってもらうんだから。それから……そこにいる君!」
少女がロハンに視線を移し、こちらに向かって指差す。
「えっ、僕ですか?」
「そう、君だよ君! どうしてジャガンちゃんの生贄にならなかったのさ! もし生贄になってたら、私と体が入れ替わってたのに~」
「か、体が入れ替わるって……」
「この女の子の体にも飽きちゃった。お鼻の形も気に入らないし、そろそろ新しい体と入れ替わりたいと思ってたんだよね」
――その話を聞き、ロハンはヴァジュラを怒りで強く握り締める。
「おまえまさか……そんな理由で生贄を求めてたのか?」
「そうだよ~。君の住んでた村の子供たち、エグいくらいブッサイクしかいなかったんだもん。だから全員、ジャガンちゃんに食べさせちゃった。ねえねえ、ヴェノーニャのお姉ちゃん。ロハン君はメモヴェルスに触れて、私と入れ替わるの無理そうになったから、また何処かの村で子供を攫って来てよ~」
ヴァジュラから放たれる雷の刀身が輝きを増し、ロハンは正眼に構えて戦闘態勢に入る。
「……絶対に許さないぞ、人間はおまえたちのオモチャじゃない!」
ロハンは地面を蹴って前方へ飛び出し、目の前にいる少女に襲い掛かったが、それを阻止するかのように巨大な触手が頭上から落ちて来た。
危うくジャガンの触手に潰されそうになったロハンだったが、瞬時に横へと避け、前転しながら態勢を素早く整える。
「くそっ!」
「無理だぜロハン、悪いがおまえさんにジャガンは倒せない。ここは一旦退くしかねぇな」
「だって!」
「だってもクソもあるか、自分が実力不足なことをまず認めろ。必ずチャンスは来るが、それは今じゃねぇんだ」
そう言うと、ラファエルはロハンを抱えて城の外へ逃げようとする。
「アハハハ! あいつら、尻尾巻いて逃げるつもりだよ。無様だねぇ~」
「なんだよ~。ジャガンちゃんの運動不足解消に、これから遊んであげようと思ってたのに。プンプン!」
背後でヴェノーニャと少女の煽るような言葉が聞こえたが、ロハンにはどうすることもできない。
「ちくしょう……ちくしょうちくしょう!」
ロハンは涙交じりの声で悔しがった。




