ミゼラムの最期
「キキ……キィキィ」
フギオールは痩せ細った体になり、身長は100cmくらいの小男に変わり果てる。
先ほどまで堂々とした態度で海斗と向き合っていたが、今では見る影もなく瞳には不安の色が表れている。
時折、力のない獣のような鳴き声を上げ、怯えるように海斗をずっと見ていた。
「こいつが……さっきの大男なのか?」
海斗はリボルバーを手に取ると、怯えるフギオールに銃口を向けた。
「ヒィィィ―――!」
フギオールは飛び跳ねながら海斗から逃げようとする。
だが海斗は冷静に照準を定め、フギオールの脳天に風穴を開けた。
ドサリとその場に倒れた悪しき者の刺客は、二度と息を吹き返すことはなかった。
「……よし、まずは一人」
フギオールを倒した海斗は、太陽の光の中に潜む巨大な眼球に視線を移す。
(あれが……善き者の刺客?)
巨大な眼球は海斗に話し掛ける様子もない。
ただジッとこちらを見つめるだけで、その場から動こうともせず、攻撃する素振りも見せなかった。
海斗はイヤホンマイクを通して仁翔にコンタクトする。
「お師匠。悪しき者の刺客を一人、倒しました」
「なんと、4年前の刺客をか!?」
「ええ……でも私の力ではなく善き者の刺客が現れたので、どうやらあいつが悪しき者の刺客を弱らせたみたいです」
「ついに善き者の陣営も動いたか……どんな姿をしておる?」
「巨大な人の眼球のような姿です。気になったのは、悪しき者の刺客が頻りに戒律違反はしていないと眼球に向かって言ってました。どういう意味でしょうか?」
「……分からん。恐らくじゃが、善き者の刺客との間に何かしらの齟齬があったようじゃ。しかし4年前の刺客を弱体化させるとは……凄まじい力を秘めておるの」
「これからミゼラムを倒しに行きます。善き者の刺客は動く様子もないし、攻撃して来るような気配も感じられないので」
「そうじゃな、まずは悪しき者たちをその幻異界から消し去ろうか」
海斗はフラついた足取りで再び新宿スカイアレシアを目指した。
そしてビルの入り口からホールへ足を踏み入れると、周囲に響き渡るミゼラムの叫び声が聞こえた。
「助けてぇぇぇ―――助けてくれぇぇぇ!」
見ると無数の原生種に囲まれたミゼラムが、触手の先端から伸びる爪で何度も刺されていた。
「どうなってるんだ……?」
「あああ! 海斗様、助けてください! こいつらを殺してよぉぉぉ!」
原生種は動きを止めず、今度はミゼラムの手足を触手で縛り、ホールの中央に体を高く掲げた。
「うわあああ、繭に……繭にされちゃう! 何やってんだ穂積海斗! こいつらを殺せと言ってるだろうがぁぁぁ!」
「……それが人にものを頼む態度かよ。自業自得だ、陽介と一緒の痛みを味わうんだな」
原生種はネバネバとした体液を吐き出し、それを糸のようにミゼラムへ巻き付ける。
一瞬でミゼラムは蚕の繭のような形となり、口を閉ざされ叫び声すら聞こえなくなった。
そして原生種が何本もの触手を繭の中へ突き刺し、大量の寄生虫をミゼラムの体内に注入した。
「……終わったな」
海斗はその場に腰を下ろすと。仁翔に今までの出来事を報告する。
「お師匠、悪しき者の刺客を倒しました。メモヴェルスの反応も穏やかです」
「そうか……ご苦労だったな」
「これで俺は過去に戻れそうですか?」
「いや、まだ善き者の刺客が残っておる」
海斗はホールの窓から外の太陽を見た。
巨大な眼球は依然としてこちらを睨んでいる。
「でも善き者って、愛とか思いやりとかポジティブな思想の担い手なんですよね? じゃあ話し合いで色々と解決できるんじゃないですか?」
「それは違うぞ海斗。本当に厄介なのはこれからじゃ」
「……え?」
――すると突然、ビルの近くで爆撃のような激しい音が鳴った。




