教祖ヴェノーニャ
部屋の隅でカランという音がしたため、談笑していた3人は一斉にそちらへ視線を向ける。
そして壺の裏側を注意深く見られると、ロハンが隠れていることに気が付いてしまう。
「お、王子!?」
「あちゃ~、見つかっちゃった」
「今の話を聞いていたのかっ! 仕方ない、ここで殺してしまえ!」
3人は懐からナイフを取り出し、ロハンの息の根を止めようと襲い掛かって来た。
しかし、ロハンはそれらの攻撃をヒラリと躱すと、先頭にいた一人を蹴りの一撃で気絶させる。
「なっ!?」
「……まずは一人」
「こ、これは……本当に王子か? まさか偽者ではあるまいな!」
「番兵を呼べ! この者をひっ捕らえるのだ!」
一人の男が部屋から出て、警護の兵士を呼びに行った。
「うわ~、大騒ぎになっちゃいそう。ここから早く逃げないと」
ロハンはキョロキョロと辺りを見回すと、子供が通れそうな小さい窓があることに気が付いた。
そして窓を開けて外へ飛び出すと、下にあった芝生に上手く着地する。
上を見ると、窓を通れない男が悔しそうにこちらを睨んでいた。
(子供の身長だから助かった……このまま城を抜け出しちゃおう)
ロハンは城の庭を駆け抜けると、城外へと続く太い一本道に辿り着き、その道に沿って城の外を目指した。
――しかし。
ドン! と音がした瞬間、何か巨大なものが目の前に舞い降りて来た。
砂埃が舞ったのでロハンが目を凝らして見ると、それは原生種の背に乗ったヴェノーニャの姿であった。
「あ~らあらあら、悪い坊やだこと。城の中へ盗みにでも入ったのかしら?」
「おばさんは……誰?」
「お、おばっ……!」
ヴェノーニャは鬼の形相になり、持っていた槍を怒りでブンブンと振り回す。
「おばさんじゃねぇよ! そりゃあんたよりは年上だけど、見た目は20代前半で通ってるんだ!」
「……でも、20代前半ではないですよね」
「うるっさい! 言わなくてもいいだろうが、そんなこと! 下衆な野郎だね」
ヴェノーニャは顔を紅潮させながら、槍の切っ先をロハンに向ける。
「あんたには恨みがあるの、私のカワイイ妹をぶっ殺したからね。ここで仇を取らせて貰うわ」
「カワイイ妹? 誰のことですか?」
「聞いてねぇのかよ! あのマッチョには、ちゃんと伝えたはずなのにぃぃぃ!」
「そんな話、一言も聞いてないです。本当に誰なんですか?」
「マラーニャだよ、マラーニャ。忘れたとは言わせないからね!」
マラーニャという名前を聞いて、ロハンは頭を抱えてしまう、
「ま~たあのノリに付き合わされるんだ……勘弁してよ」
「どうやら思い出したようだね」
「じゃあ、おばさんは悪しき者の刺客なのか。こんなところで何をやってるの?」
「私はモルテーム教団の一員として、新興派の教祖として君臨しているの。それから、おばさんおばさん言うんじゃねぇ! 私にはヴェノーニャって言う、立派な名前があるんだから!」
……ヴェノーニャは話を終えると、再び槍を構えて攻撃態勢に入る。
「話は終わりよ……ここであんたを串刺しにしてやる!」




