王子の暗殺
「ううう……サポートするって言ったクセに」
ロハンは広い部屋でポツンと一人残され、寂しさで泣きそうになった。
部屋の中は家具などに豪奢な装飾や刺繍が施され、その派手さがかえって息苦しさを感じさせる。
(ここでジタバタしても仕方ないか……久しぶりに落ち着いて寝れそうだし、さっさと眠っちゃおう)
不貞寝するかのようにロハンは横になり、そのまま目を閉じて眠ってしまった。
――そして5時間後。
頬にフワリとした風を感じたため、ロハンは目を開けて起き上がり、周囲の様子を確認してみた。
見ると窓の扉が少しだけ開いている。
「……あれ?」
立ち上がって窓を閉めたが、なんとなく部屋の中に人がいるような気配を感じた。
(何かおかしい……誰かが部屋の中に入ったな)
ふとテーブルに視線を向けると、フルーツや飲み物などが置かれており、ロハンはそれらを手に取って匂いを嗅いでみる。
(……毒を入れられたのかもしれないな。そんな気がする)
すると次の瞬間、黒ずくめの男がロハンの背後から襲い掛かって来た。
どうやら大型の家具に隠れていたらしく、ロハンを殺そうと息を潜めていたらしい。
だが、ロハンは咄嗟に身を翻し、男の攻撃をフルーツの皿で受け止めた。
「なにっ!?」
あまりの反応の速さに男は驚いたが、すぐにナイフを持ち替えてロハンを突き刺そうとする。
しかし、ロハンはイーテルヴィータが確定しているため、過去に学んだ格闘術を思い出して、黒ずくめの男をいとも簡単に投げ飛ばしてしまう。
床に思い切り叩き付けられた男は、その衝撃により気を失ってしまった。
「はあ……はあ……あ、危なかった」
ロハンは額に浮き出た汗を拭うと、黒ずくめの男の顔を確かめてみる。
「どうやら暗殺者のようだな。狙いは僕じゃなくて、この国の王子様だったはず。毒入りの飲み物を飲まなかったせいで、シビレを切らして出て来たのかも」
そしてロハンは部屋の前にいる見張りの男を呼ぼうとしたが、声を掛けても一向に反応がなかった。
(……やっぱり変だ、人払いがされてる。周到に計画された暗殺らしい。そう考えると、ここへ連れて来たあの老人も怪しいな)
……しばらく考えた後、ここにいては危険だと思い、ロハンは部屋からの脱出を試みる。
「あのマッチョおじさんだって約束を破ったんだ、僕も約束を破っちゃおう。こんなところで大人しくしてたら死んじゃう」
窓から下を覗き見ると、二階に通じるテラスがあるため、ロハンは窓から身を乗り出して、そのテラスに飛び降りた。
そのまま身を隠しながら二階へ侵入し、すぐ手前にある部屋の扉を開けて中に入る。
(あ……ここは談話室みたいだ。長く隠れられるような場所じゃないな)
すると、部屋の前から数人の男性の会話が聞こえ、こちらへ向かって歩く気配を感じた。
どうやらこの部屋の中へ入って来るらしい。
ロハンは慌てて隠れる場所を探し、幸いなことに大型の壺が置かれていたため、その陰に身を潜める。
そして扉が開く音がして、数人の男性が会話をしながら部屋へ入り、それぞれの椅子に腰掛けて互いに顔を見合わせた。
「やれやれ、もう少しで戦争が起こせそうだったものの、王が寸でで踏み止まってしまったわい」
「今なら弱体化した王国を乗っ取れるはずなのにな」
「まあ時期が時期だ。ヴェノーニャ様の教えも浸透しつつあるし、その虜となっている王の命も風前の灯であろう。今は待つのが最善の策である」
何やら物騒な言葉が交わされているも、内情を知らないロハンにとってはチンプンカンプンである。
「……して、王子の暗殺については?」
「今夜が決行だと聞いている。もう終わっているのかもしれん」
「朝には死体が見つかるさ。あそこの使用人は買収を済ませているゆえ、驚かれもしないだろうな」
その話を聞き、ロハンの蟀谷に青筋が立った。
(ちくしょう、城の人間は誰一人として信用ができなさそうだ)
――だがその時、手前に置かれていた燭台を、ロハンは肩で引っ掛けて倒してしまう。




