城塞都市ファリア
ロハンと一行は、ハザルの村を後にして城塞都市ファリアへと向かった。
ムガル帝国の支配が進む中、ファリアは王国の城塞都市として、帝国の猛攻に唯一抵抗できるほどの堅固な防御力を誇っていた。
マハーラージャであるアフマド王は、インドの南西部にこの城塞都市を築き善政を敷いていたが、最近ではキナ臭い噂が人々の間で飛び交っていると聞く。
「ちょいと調べたんだが、どうやら怪しい宗教家がアフマド王の側近になったらしい。恐らく、前に話したモルテーム教団の関係者だろうな」
ラファエルは焼いた魚を頬張りながら、ロハンにファリアの内情を説明する。
「モルテーム教団て、どんな組織なんですか?」
「人間の『死』を人生の始まりと位置付けるのが彼らの教義だ。だがその実態は、虐待や拷問による苦痛、精神の荒廃などを推し進め、それを魂の目覚めなどと称して騙すのが奴らの手口なんだよ。それに、悪しき者たちが設立した組織でもあるんだな、こいつが」
「悪しき者が……」
「ああ、だから余計にタチが悪いのさ」
そう言うと、ラファエルは皿に乗せられた魚料理を一気に平らげた。
「ちょっと~、僕の分まで食べないでくださいよ!」
「また注文すりゃいいだろ。ここの料理、けっこう旨いぞ」
「なんで実体がないのに、食べ物だけはちゃんと食べられるの? おかしいですよね」
「細けぇこと言うな。天使だから、お供え物は食えるんだよ」
「……で、これからどうするんですか? このお店に長いこと居座ってますけど」
「それなんだがな……」
――その時、ロハンの背後で「王子、王子ではないですか!」と老人の声が聞こえた。
「……へ?」
ロハンは驚いて振り返ると、その老人に肩を掴まれて詰め寄られる。
「な、なんですか!? 放してよ!」
「逃がしませんぞ王子! あれほど城下町に行ってはならぬと釘を刺したではありませんか」
「僕は王子なんかじゃないよ!」
「惚けないでください。さあ番兵よ、王子を丁重に城までお連れするのだ」
その様子を見ていたラファエルは、ロハンにそっと耳打ちする。
(おい、王子様のフリをしておけ。後は俺がサポートしてやるから)
ラファエルにそう言われたため、ロハンは不本意ながらも、老人と番兵たちに連れられてファリアの城へ向かった。
――そして城門をくぐり抜け城の中へ入ると、観念したと分かったのか、番兵たちが去って老人と二人きりになる。
「まったく……爺は心配しましたぞ。大切な時期ゆえ、何かあった場合はアフマド王に顔向けができませぬ」
ロハンは「そんなこと言われても」と内心で思ったが、言い返しても状況が変わるとは思えないため、しばらく黙っていた。
隣では、ラファエルが澄ました顔で立っている。
「さあ、自室へ戻ってくださいまし。しばらくは部屋から出るのも禁止です!」
そう言われ、ロハンは渋々頷くと、老人と一緒に城の廊下を歩き出した。
そして付いて来るラファエルに、ロハンは小さい声で話し掛ける。
(知らなかったです……僕がこの国の王子様に似てるなんて)
「ああ、それは俺が過去を書き換えて、おまえさんとソックリになるようにしたからだ」
――ラファエルの話を聞き、ロハンは怒りで顔が真っ赤になる。
「なんでそんな勝手なことするんですかっ!」
急に背後で大声がしたため、老人が驚いて振り返る。
「ど、どうされたのです!?」
「あ、いえ……なんでもありません」
ロハンは困ったように頭を掻くと、その様子を見て、老人は訝し気な視線を向ける。
しかしロハンが落ち着いたことを確認すると、再び背を向けて廊下を歩き出した。
「おい、俺は行くからな。しばらく城の中で大人しくしてろよ」
「えっ、困りますってば」
「うるせぇ! いいか、バレるなよ。バレたら一発処刑になるぞ。おまえさんのイーテルヴィータが、人間に殺されて失敗になるとか、シャレにならんからな」
……そう言うと、ラファエルはフッと煙のように姿を消した。




