モルテーム教団
――三日後。
ロハンと一行は、住んでいたハザルの村に向かっていた。
ロハンは行きたくないと駄々をこねたが、ラファエルは首根っこを掴んで無理矢理同行させたらしい。
「行っても絶対に歓迎されませんよ。矢とか飛んで来ても知りませんから」
「俺に人の子のヘナチョコ矢が刺さると思うか? 心配すんな、村の人間は全員死んでる」
「ええっ!? ど、どうして?」
「おまえが生贄になるのを嫌がったからだろ。ジャガンとか言う原生種に村が荒らされたんだ」
ラファエルの話を聞き、ロハンは罪悪感で胸が一杯になる。
あそこには仲の良い友達もたくさんいたからだ。
「おまえと会う前に村の様子を見てみたんだ。もう容赦がないというか……村全体が血の海といった感じだったぞ」
「そんな……」
「まあ、生贄なんて悪習があるのも問題だが、巨大な原生種を野放しにしているのも問題だ。さっさと退治するとかしないと、根本的な解決にはならんだろ」
「それは無理なんです。ここではジャガンが神様のように扱われてますから」
「……そうなのか?」
「ジャガンと言う名前は『ジャガンナート』と呼ばれる神様から名付けられました。この地域ではクリシュナ神の信仰が根強くって、ジャガンナートは、そのクリシュナ神と同じ扱いになっている神様なんです」
「あの原生種がクリシュナの化身だってことか?」
「そんな感じです」
「ほう……そいつはかなり間違った信仰だな」
そんなことを話していると、一行は村の入り口に辿り着いた。
ロハンは村の中へ足を踏み入れようとしたが、ラファエルが「ちょっと待て」と服を引っ張って止める。
「……どうしました?」
「村の中に誰かいるぞ。気配を感じるんだ」
ロハンとラファエルは頭を低くして、茂みに隠れながら村の中へ入ると、目の前に数人の男が一人の女性を囲んで立っていた。
「本当だ……誰なんだろ?」
「おまえはここで待っとけ。俺が探りを入れて来る」
そう言うと、ラファエルは急に立ち上がって、堂々とその群れの中へ向かって歩き出した。
(え、え、えええ? あのおじさん、何やってんの?)
あまりに大胆な行動にロハンは驚いたが、目の前にいた男たちは、何故かラファエルの存在に気が付かないでいる。
そして数分後、男たちと女性は会話を終えたのか、村の入り口からそそくさと出て行った。
「おうロハン、出て来いよ。連中は行っちまったみたいだぞ」
ラファエルが呼ぶと、ロハンは茂みから顔を出して、すぐに彼の下へ駆け寄った。
「あの人たち、おじさんが近寄ってもまったく気が付かなかったみたいですけど」
「そりゃそうだ、天使が簡単に見えてたまるかっての。あいつらには、俺に対する信心がまったくないからな」
「信心がないと見えないんですか?」
「前にも言ったが、俺たちのような存在は人の子が意識を向けないと消えちまうんだよ。観念や想念みたいなもんだからな。人によっては翼の生えた姿に見えたり、目が潰れるほどの光だったり、美青年だったりするのは、それぞれ意識の違いがあるからだ」
「じゃあ僕が凶悪犯みたいに見えてるのは……あ、いえ、なんでもないです」
「それは、戦争の時におまえさんを一発ぶん殴ったからだろうな。恨みが潜在意識として残っているのかもしれん」
「なるほど、納得しました」
「……勝手に納得すんじゃねぇよ」
ラファエルは口をへの字にしながら、自分の髭をボリボリと掻いた。
「話を戻すが、あいつらはここから少し離れた城下町に住んでいる連中らしいぞ」
「ファリアですね。僕も行ったことがあります」
「それと、会話の内容でちょいと気になる名前が出た。恐らく、俺たちにも関係ある場所になるだろうな」
「それは?」
――ロハンが興味深そうに視線を向けたが、ラファエルは眉間に皺を寄せ、急に険しい表情へと変わる。
「それはな……モルテーム教団の寺院が建てられたらしい」




